着物と母
母から実家の通帳の場所を伝えられ、入院費用や父の生活費のやりくりを頼まれた。
実家にある大きな衣装箪笥。実家には似つかわしい、唯一立派な家具。母の言われた通りに開けると、上段に通帳やはんこなど大事なものが仕舞ってある。ふと下段の奥を見ると、見たことのない桐の箱が何段か積んである。
何だろうと、何の気なしに開けて見ると、きれいに畳まれた帯が出てきた。レンガ色の帯と渋い紫色の帯。柄はないのだが、深い色にしばらく見とれた。奥のほうにもまだ帯が大事に仕舞ってある。別の桐箱には丁寧に和紙に包まれた着物が数枚現れる。
実家は決して裕福でもないし、ましてや着物を着た生活など、どれだけ考えても思い出として思い出されない。
不思議に思いながら、勝手に袖を通して、お姫様気分を味わった。
「きれい。」
しかし、着付けもさっぱり分からないので、すぐさま元通りに畳み直して仕舞い込んだ。