着物と母
着物と母
実家の母が倒れた。心筋梗塞だった。
ドラマの1シーンのようだった。小走りで病院内を走り、私が駆けつけた時は、母は車椅子に座り、父と一緒に医師の話を聞いている時だった。母は私を見て、苦笑いをしてうつむく。その背中は本当に小さく、鼻につながる酸素チューブの位置を直す手はしわしわだった。
「お父さんをよろしくね」
母はそうつぶやいた。自分のことより、自宅で一人になる父のことを心配していた母。私は医師の説明に集中できず、「こんなに白髪が多かったっけ」と思いながら、ぼんやりと母の後ろ頭を見つめていた。
大事には至らなかったものの、心臓を這う大きな動脈のうち3箇所がほぼ詰まりかけており、次に発作が起きたら命はないと言われた。全く実感がわかなかった。
それは母も同じだった。今まで自分のことで病院には通ったことがない母。検査やステント手術のため、しばらく入院することになった母は、何度も『情けないなぁ』とぼやいていた。