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着物と母

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 ステント手術も無事終わり、リハビリをこなしながら、なんとか退院の目処がたった頃、母に聞いてみた。あの帯と着物は何なのか。
「ありゃ、見つかったか。あれはあんたの帯と着物よ。」
 照れ笑いする母。私はポカンとなった。
 話を聞くと、帯と着物は、ずいぶんと昔に田舎で母が着ていたものだった。その帯と着物を、専門店へ持っていって、裾直しや染み抜きなどを依頼し、私のために新品同様に仕上げてもらったとのことだった。
 そういえば、10年前の成人式が近くなった頃、着物は着るのかと聞かれ、「友達と安いレンタルを予約したわ。どうせ式の時しか着んし。」と返事をしたのを思い出した。
 最近、正月が近づいた時も、正月くらい着物を着ないのかと聞かれた。「ちっちゃい子どもが二人もおるのに、そんなん着とられんよ。汚れされるし、動きにくい。」そう答えると、母は「そうかぁー。」とだけ返事をして、寂しい表情をしていた。
 それ以来、特に帯やら着物やらの話をしたことはなかった。

「あんたが着たいって思った時に、出してあげよう思うとったのに。」
 少しやせた頬に手を置いてため息をつく母。

 しつこいかもしれないが、決してうちは裕福ではなかった。
母自身、いつも同じ服ばかり着ていた。それなのに、私を育てながら懸命にやりくりして貯めたお金で、新調してくれた帯と着物。
それを考えると、思わず目頭が熱くなった。
「言うてくれりゃ着てあげたのに。」
 つい、かわいくない言葉を発してしまったが、母と笑い合った。
とりあえず、母が退院したら母に着付けを習おう。母が身に付けていた帯と着物を、今度は私が身に付けるのだ。久しぶりの着付けを、きっと、ああでもない、こうでもないと四苦八苦しながら私に教える母の姿。そんな光景を想像するだけで、私は胸が温かくなる。
 そして、母の思いを、いずれは私の娘へと引き継ぎたい。まだ2歳の娘だが、大きくなったら、自慢の母の話をしながら着付けを教えてあげよう。
作品名:着物と母 作家名:柊 恵二