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看護師の不思議な体験談 其の十一

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 一枚の伝票とともに、ホルマリンに浸けられた命は病理検査へまわされる。
(命って、何だろう…)
 考えれば考えるほど分からない。こんな私が、この現場にいてもいいのだろうか。
その時、スタッフに声をかけられた。
「杉川さん、Aさんとこからナースコール。」
 ハッとした。難しいことを考える前に、とりあえず目の前の仕事を頑張らなければ…。

「点滴終わったらすぐ帰る。」
 Aさんは視線を合わせずそうつぶやいた。
「まだ、ふらつくから危ないですよ。」
「大丈夫。」
 退院後の注意点などを話しているうちに点滴も終わり、針を抜いた。
「…こんなところにいるのが嫌だ。」
 朝会った時の反抗的な態度とは違って、覇気がないというか。
「Aさん?大丈夫?」
 私は何だかAさんがひどく幼く見えた。年齢とかではなく、抜け殻のような姿がとても頼りなく見えた。
「Aさん、一人で帰れます?」
「…いつも一人だし。」
 どうも様子がおかしい。
 しばらくそばにいると、Aさんがふとんをガバッと頭まで引き寄せた。
「…うちだって、堕ろしたくて堕ろしてるんじゃない!!!」
「…!」
 私は驚いて言葉を失った。ふとんの中で、小さく丸まったAさんの体が嗚咽とともに揺れる。