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看護師の不思議な体験談 其の十一

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 私はショックだった。
 私はAさんの何を見ていたのか。
『私、自分勝手な人の中絶の手伝いをするために助産師になったんじゃない!』
 後輩Kさんの言葉を思い出した。
 私たちみんな、Aさんの表面しか見ていなかった。中絶に至るまでの社会背景を全く見ようとしていなかった。
いつも日帰りで処置だけ淡々と済ませて、毅然とした表情で帰っていくAさんのことを、『中絶を簡単にできる身勝手な人』という偏見の目で見ていた。
 きっと、それは処置に訪れるたび、Aさんに伝わっていたのだろう。
(あぁ、なんのために看護師・助産師の仕事をしているのだろう)
(怪我や病気で、辛い思いをしている人の心身を手助けしたいという気持ちで、看護師を目指したんじゃなかったっけ…)
(自分が恥ずかしい…)
「ごめんね、Aさん。」
 しばらく一緒に涙を流した。
 Aさんへの謝罪と、自分の情けなさに、胸が押しつぶされそうだった。


 結局しばらくして、Aさんはすっきりしたのか、帰る準備をし始めた。
 泣いていたのは嘘かと思うくらい毅然とした表情で、カカトの高いハイヒールをカツカツ鳴らしながらエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーター前でお見送りをすると、Aさんは扉が閉まりそうな瞬間、携帯を持った手をヒラヒラさせて、口パクをして言葉を私に伝えた。
『あ・り・が・と』

 ゆっくりと扉が閉まり、なんともいえない気持ちになった。
 携帯電話は、Aさんにとって、やっぱりお守りだったのだ。どんな意味があるのかは分からないけれど、少しでもAさんにとって、不安な気持ちが緩和したのならば…。
 次は、派手なネイルで携帯を手にし、マタニティを着たAさんにお会いしたいと願うばかりだった。