看護師の不思議な体験談 其の十一
中絶手術は、手術自体は30分程度。術後の経過観察を含めても日帰りで済んでしまう。
部屋へ入るとAさんは、携帯電話をいじりながら私をチラリと見た。
「できるだけ早く帰りたいんだけど。彼氏が待ってるし。」
(ああ、今自分がここの職員じゃなきゃ、この子の頭をぶん殴ってんだけど…)
Aさんはとても綺麗な顔立ちで、服やカバンなど持っているものは派手なものばかり。
小さくため息をつき、Aさんに今日の処置の流れを説明する。しかし、私の説明を、Aさんは面倒くさそうな顔でさえぎった。
「もう何回もやってるから、分かってる。」
(あ、そう)
後輩Kさんじゃないけど、ホント、何でこんな仕事をしなきゃいけないんだろう。
ある程度Aさんの手術の準備をし、一旦退室した。
後輩Kさんは、気持ちを切り替えることができたのか、授乳室で産後のお母さんたちと談笑している。
(Kさんとも、今度ゆっくり話を聞いてあげないとなぁ…)
看護に対する熱い想いと現実とのギャップに苦しむ2年目。
この時期を乗り越えることができれば、さらに成長できるはず。乗り越えることができるかどうかは、まわりのフォローも重要となってくる。
Kさんのことも気になりつつ、私はとりあえず自分の業務をこなしていった。
その他の受け持ち患者様の検温を済ませ、とうとうAさんの中絶手術の時間になった。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十一 作家名:柊 恵二