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看護師の不思議な体験談 其の十一

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 今日の勤務は比較的落ち着いていた。分娩管理もなく、他科も重症患者は減っていた。
 その他の処置として、妊娠7週の人工中絶予定者が1名おられた。私の勤務する中規模病院では、基本的に中絶手術は引き受けない。しかし、ずっと当院に受診している患者様のみ引き受けることもあるので、毎月1~2例は中絶手術がある。
 中絶予定のAさん(25歳)は、当院で7回目の中絶であり、若干お馴染みの顔になりつつある人だった。

『気が重い…』
 誰もがそう思ったが、口には出さなかった。勤務前からマイナスな発言をするとチームの士気が下がってしまう、そしてそれが患者様に伝わってしまうからだ。
 しかし、後輩の言葉でチームワークは崩れかけた。
 夜勤からの申し送りを聞いた途端、後輩Kさんがつぶやいた。
「命を何だと思ってんだよ。」
 チームメンバーが全員ピリッとした空気に包まれた。
 きっと、中絶予定のAさんのことを言ったのだろう。
「Kさん。」
 きつめの口調でたしなめる。
「…だって、妊娠したくてもできない体の人だっているのに。しかも、もう7回目の中絶ですよ。それに、どれだけちっちゃくても、命なのに…。中絶は人殺しと一緒です!」
 助産師2年目の後輩Kさんは、真っ直ぐな言葉で私の心を貫く。
 もちろん、私だってKさんと同じ気持ちだ。
 だけれど、これは「仕事」なのだ。患者様本人が決断した行為であり、法律的にも認められている行為だから、仕様がない。
「私、自分勝手な人の中絶の手伝いをするために助産師になったんじゃない!」
 とうとうKさんの目から涙がこぼれた。
 みんな、なんともいえない空気にのまれてしまった。
 主任にお願いし、一旦Kさんには休憩室で休んでもらうことにした。
 重い空気の中、日勤勤務が始まった。
 通常分娩は先輩Mさんにお願いし、中絶手術は、私が受け持った。