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桜の光景

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 一度目は高校二年になったばかりの休日。どういう経緯を辿ったものか、若葉は吉野の家に一人で遊びに行くことになった。吉野の自宅の最寄駅で待ち合わせをし、若葉が時間通りにそこに行くと、驚いたことに彼女がもう来ていた。待たされる覚悟をしていた若葉が「どうしたの?」と尋ねれば「何が?」ときたものである。その気まぐれに若葉はまた呆れ返ったけれど、彼女の家に向かい歩いているうちに、そんなことはどうでも良くなった。暖かく、穏やかな日差しとたまに流れる空気がとても心地よかった。

 吉野の部屋に着き、会話の途中で若葉が何気なく開け放たれた窓の外を見ると、周りに高い建物がないおかげで随分と見晴らしがよかった。パッとしない色の屋根の海が広がるその中に、白く煙ったようなところを見つけた。その正体を見極めようと注視する若葉の、その視線を追って窓の外を覗き込んだ吉野がその答えを明かした。

「ああ、あそこの公園、桜が凄いんだよ」
「あ、あれ、桜なんだ」
「うん。天気も良いし、行く?」
「行く」

 何か予定があったわけでもなかった二人は、そんな感じでその公園に花見に行くことになった。途中コンビニでお茶を買ったりしながらぶらぶらと歩いていった。

 目的の公園は吉野の言葉どおり、見事なまでに桜が咲き乱れていた。目の前に広がる花々に圧倒され、一瞬声を失いかけた若葉の様子を見咎めたのか、吉野はにやにやと笑いながら隣の腕をつついた。

「凄いでしょ」

 自分の事でもないのに誇らしげに言う吉野に簡単に同意する気にはなれなかった若葉は、いかにもなんでもないような顔で、実に情緒のない返事をした。

「もうちょっとしたら、毛虫が凄そうだね」
「素直じゃないねえ」

 そう言ってまたにやにやと笑みを浮かべる吉野が近くのベンチを目指して歩き始めたから、若葉はしかめっ面でその後ろを着いていった。ふわふわと癖のある髪が吉野の肩の上で揺れるたびに、先程の薄ら笑いが思い出されてその頭を拳骨で殴ってやりたい気分になった。けれど、目的のベンチに着いて腰を下ろした吉野はもう薄ら笑いをやめていて、自分だけいつまでも苛ついているのが癪だった若葉は、間を大きめに開けはしたものの大人しくその隣に座っておいた。それから、二人して買ってきたお茶を飲んでは桜を見上げていた。平日の昼間、住宅街の小さな公園には母親に連れられた子供たちがはしゃぐ声が響いていた。

「団子も買うんだったね」

 唐突な吉野の言葉に若葉は思わず笑ってしまった。けれど、それはとても自分たちらしい事のような気がした。

「そうだね」

 いつもに比べ二人ともあまり話さなかったけれど、風が冷たく感じるまで桜を眺め続けた。たまに風が枝を揺するたびに視界を覆う桜色が勢力を増すようで、その様子を二人並んで飽きもせずに眺め続けた。

作品名:桜の光景 作家名:新参者