父の肖像
冷たく慈悲のない音が静かな室内に響き渡った。その何とも言えない無慈悲な音を今も忘れない。やがて、残酷の音に聞こえてきた。なぜなら、父が無慈悲に打たれているように思えたからである。何か重大な罪を犯しかのように。
心の中で、「もう、止めてくれ!」と何度も叫んだ。その時、自分にとって、父がかけがえのない存在であったかを気付いた。心のどこかで愛していたのかもしれない。死んで、骨を砕かれて、初めてそのことに気付いた、同時、ずっと気付かなかった自分が、いかに愚かであったかも悟った。
働き尽くめで人生であった父に、息子のことをあれこれ考えたり思ったりする余裕などなかっただろう。それでも、写真を前にして、「どう思っている?」と聞きたくなるのは、やはり、あの日の、「海に入らないのか?」という言葉があまりにも深く心に刻み込まれたせいだろうか。
(終わり)