むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
市原という男は……ちょっというか相当おかしな人物である。貶めるのか、持ち上げるのか。安心させようとしているのか、不安に落とし込もうとしているのか。ただの無責任なのか、それとも何か企図があるのか。
――なんだ、このヒゲ……頭やっぱりおかしいな。そうでないとすれば……。
小娘は思った。そして、同時にエターナル・ラブという作品の先行き。
作品はただの製造物。商品。でも、そこには魂が宿っている。
――こんなおっさんがプロデューサー……。大丈夫なのか?
暗澹たる気分とはこのこと。と。丸山花世の暗い気持に拍車をかけるようにして大井弘子が言った。
「雑誌にも、いろいろと広告を載せるのですね……」
それは丸山花世が飽きてしまったギャルゲー雑誌。いったいどれぐらい部数が出ているのかは分からないが、多分実売は六千部ぐらいか。
「ええ。エターぐらいの作品になると、向こうから記事を書かせてくれって寄って来ますし……」
「つかぬことを伺いますが……」
大井弘子は言った。
「キンダーガーデンが倒産した時にもこちらの雑誌には広告を出していたわけですよね?」
「ええ。そうです。ちょうどカーテンコールが出るときでしたから、結構な広告は出しましたよ」
「倒産したときに……こちらの雑誌では、何か、キンダーの倒産についてコメントのようなものはありましたか? たとえば……残念なお知らせであるとか、ありがとう、であるとか」
女主人の声は低い。そして市原は特に何の感慨も現さないままに言った。
「いいえ。そういうのはありませんでしたね。はい。ボクの知る限りは見てないです」
「で、今回も、こちらの雑誌に広告を載せる?」
「ええ、そうですね」
小娘は姉の質問の意味を理解している。つまりは、
――おまえにはプライドはないのか。
ということであろう。さらには、
――倒産という大きな事件を経験したのに、何事もなかったかのように昨日と同じことをしようとしているのか?
という疑問。キンダーの人々は……つまり、変わっていない。変わることを拒否するということ。
「以前にもお話したように、エターは勝負作ですから、広報に金をかけようと思っているんですよ。七百万とか……それから、声優を集めて感謝イベント」
「イベントですか……」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮