むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
はっきりさせておこう。丸山花世は聞いていない。そして。大井弘子が言った。
「全て放送には間に合わないのですね」
「ええ、まあ、そうですね。難しいですね」
ヒゲのピアス男は明るく言った。この男は何も分かっていない。
「なかなかアニメの放映にゲームのリリース時期をぶつけていくのって難しいんですよ。開発にどうしても手間取りますから」
「ほー」
丸山花世は言った。
「それから……全ての作品は、こちらの社長さんが楽曲を提供しておられる……」
「ええ、そうです。その通りです」
丸山花世は大井弘子のことを見やる。何も考えず、何も気がついていない中年男と、暗い眼差しをした姉。
――こういう時のアネキは……私もちょっと怖いんだよな。
「バーターですよね?」
大井弘子は尋ね、市原は笑って応じる。
「ええ、まあ、そういうわけでもないのですが……楽曲を提供して、同時にその関係でゲームの製作をこちらでやっているわけでして」
「ライセンス費は当然に権利者に払ってますよね?」
「ええ、もちろんです」
権利者である王心社の例を挙げれば、ゲーム化に当たってのライセンス費を16CCは王心社に支払う。抱き合わせで会社の社長である倉田が曲を提供する……レコードやCDが十分に売れれば、ライセンス費は曲の著作使用料でペイする。だが、思ったほどに曲がヒットしなければ、ライセンス費の分だけ損。極端な話、それは会社の金で倉田がミュージシャンごっこをしているのと同じ。
「それで、CDのほうは売れているのですか?」
大井弘子は探るように言った。通常は、ダイレクトに返答がない難しい質問。普通部下は上司の失態を隠したがるものだが……。
「それがまったく売れてないんですよ」
市原ははきはきと明るく言った。質問した大井弘子は思わず妹のほうに怪訝な顔を見せたほどである。
「売れ行き良くないんですよ。レコード部門。倉田も『自分には経営センスない』とか言ってるぐらでして……」
「……えーと、大丈夫なの、そんなので、会社は」
不安に駆られた小娘が訊ねる。
「ええ、まあ……組織がでかいですしね。NRTグループは。株価は冴えないですけど……」
「……」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮