むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
市原は曖昧なまま話を変えた。名刺。新しい名刺はそんなに大切なことなのか。優先順位としてそれは一番上位にあるのか。大井弘子も渋い顔であるが、特に何も言わない。
「えーと、丸山さんも、どうぞ」
市原は名刺を渡してくる。
――16CC Game エグゼクティブプロデューサー市原明和。
「ふーん」
小娘はただ鼻を鳴らしただけ。
「で、それで、今日は……」
大井弘子が不穏な空気を見せる妹を制して先に言った。
「今日はですね、ほかのスタッフに会ってもらおうと思いまして……」
「間とか、越田っていう人?」
丸山花世は間髪入れずに言った。大井弘子もそれを止めない。
「間たちの話は……前回しましたか?」
「いや。聞いてないけど」
丸山花世は涼しい顔で言ったが、その悪意に市原は気がついていない。抗うつ剤で澱んだ頭は小娘の動きにはついてこられないのか。
「間たちは今日は別の仕事がありまして。うちでもこれから年末にかけてがんがんタイトルをリリースしていきますから」
市原は景気が良い。
「どんなタイトルですか?」
大井弘子が訊ねる。黙っていれば妹が何を言い出すか分からないから……というわけではない。姉は優しい顔をしていながら、妹以上に鬼のようなところがある。作品を作るために、相手から一切合財全てを引きずり出してエターナル・ラブという作品に注入する。料理は始まっているのだ。
「まず、今月末に、レゲエガールという作品が出ます。これは、王心社のマンガが原作で、アニメが去年放映されていたもののゲーム化になります」
「ふーん」
丸山花世は姉が先ほど触れていたゲーム雑誌を眺めながら適当にうなった。
「それから、電流魔術詩という……これも、アニメ作品ですね。今年の三月に終わりましたが、これのゲームが再来月に出ます」
小娘はうなる。
「へー」
「それからエロゲー移植のパンプキンアイという作品のコンシューマー。それから、女性向けのゲームであまからポテチという作品。二つの作品は年末に出ます。二つともうちの系列の会社でアニメ化されたものがUHF局で放送されて……あれもそろそろ終わりですか、……」
小娘は答えた。
「はー」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮