むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
「ちょっと待っててください、今、お茶をお持ちしますから……」
市原は言い、大井弘子は『お構いなく』と応じたのだが、市原は部屋を出て行った。
「殺風景な部屋だな……」
小娘は観察している。観察、観察、観察。基本は見ること。見て本質を掴むこと。見なければ書けないし作れない。
「……ん、どしたん、アネキ?」
大井弘子はテーブルの上に乗っていた雑誌を見ている。それは、ギャルゲー専門の雑誌。昔は幾つかあったギャルゲー雑誌もひとつ潰れ、ひとつ廃刊となり、残ったのは一誌のみ。
「ギャルゲー雑誌、か。私、見たことないなー」
「そうね。私も、買って読んだことはないわね」
女は女に幻想を抱かないもの。結局、ユーザーは女性を求めているのではなく、男性の理想を求めているだけ。でも、そんなに都合のよい女はこの世にはいない。丸山花世などは最たる例。まさに地獄の死者。
やがて。市原が紙コップを持って戻ってくる。
お茶をもらい、コーヒーをもらい……大井弘子も丸山花世ももらってばかりである。
「シナリオを読ませてもらいましたよ……」
「そうですか」
大井弘子が言った。
「プロットも……スタッフ全員で読ませていただきました」
「……」
「あれは、どちらが書かれたのですか? 大井さんですか? それとも丸山さん?」
「プロットは私が。名前などは妹が」
「はあ、そうですか……」
丸山花世はいらいらしている。小娘は三神の態度を知っているだけに、市原のもっさりとした動きが我慢ならないのだ。
――良いのか悪いのか、早く言いやがれ!
市原という男は気取り屋なのか、それとも単に、ヤクが大脳の血管を破壊したのか、動きに機敏さがないのだ。
「あの……それで、どうでしたか?」
大井弘子が尋ねた。
「シナリオ、どうだったでしょう」
「あ、ええ、まあ……そうですね。それは、ほかのスタッフとも話し合って……」
市原は曖昧に言い、小娘はすぐに思った。
――こいつ、シナリオの読み込みができてねーんじゃねーのか?
分からないから言葉を濁す。良し悪しが分かっていない。だから、ほかのスタッフに判断を任せる。
「えーと、そうだ、新しい名詞ができましたので……」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮