むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
「……」
「一晩、みなさんで腹を割って話し合われると良いでしょう。それが先です。そうしてこのままでいいのか、このまま作業を続けていいのか、昨日と同じでいいのか。昨日と同じ事をやっていてそれでいいのか。そういうことをよく話し合ってください。作業に入るのはそれからです」」
大井弘子はさっさと帰り支度をして部屋を出て行く。妹もそれについていく。男達は……ただ、暗い怒りを燃やすばかり。その怒りはいったい誰に向けられるのか。
結局は、彼らは古いワインの澱のようなもの。
かつての成功体験がどうしても自己変革を鈍らせる。
――これでいい。
――このままでいい。
否。そうではない。
――変わることがもはやできない。
その先にあるのは……いったい何?
時刻は四時をちょっと過ぎる。
恵比寿駅はすでに空きの香り。売られている服も冬物となっている。
「あいつら……ホントにどうしようもねーよなー」
丸山花世は姉のあとについていくだけ。
「そんなの関係ねえとかさ……こっち、シナリオ提供してるわけで、それで関係できてんじゃんか。それを言うに事欠いて『そんなの関係ねえ』とか。てめーは幼稚園児かよ」
「そうね」
大井弘子は何かを考えている。
「何が『三十八年積み上げてきたものがある』だよな。馬鹿じゃねえの」
「……」
怒り狂っている妹に比べて、姉は言葉少ない。
「あいつら、作品のこと、何にも考えてねえんだよ。いとおしいとか、かわいらしいとか、そういう気持なんかまったくなくて……」
「作品の神様に対する敬意とかも全然なくて……社内報に刷っちまったから名前を変えろってなんじゃそりゃ!」
適当。いい加減。流れ作業。
「やる気がねえならこっちに全部預けろよな! やる気あんなら最初から出てきやがれ! 何が、ほかのソフトハウスと名前が一緒だからダメだ!」
叫ぶ妹に姉が言った。
「花世」
「あ、え? 何?」
「この仕事は……多分ならないわ」
「……」
喚いていた小娘が口を閉ざした。姉は静に、諭すようにして続ける。
「この仕事は多分ならない。作品の神様は、私達がこの作品に携わることを、多分望んでいない」
「……」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮