むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
大井弘子はそのように言って、チンピラの巣窟に分け入り、妹もそれについていく。
――あれ?
オフィスビル一階奥。まだ新しい16CC事務所を訪れた小娘はあることに気がついた。
――キンダーCC。
以前あった看板は無くなっていた。かわりに『16CC games』という看板がかかっている。それだけではない。事務所入り口近くには、ゲーム部門の商品であろう、さまざまなグッズが飾ってある。キンダー時代のゲーム、DVD。マグカップであるとか、タオル、枕――。
「こんなもん金出して買いたくねーよな」
小娘はぼそりと言った。姉は微苦笑をしただけであった。そして、今回は妹ではなく姉が、インターホンを取った。
「恐れ入ります。大井と申します」
姉はインターホンの向こうにいる誰かと会話をし、小娘は辺りを見回している。
――結構こういうグッズも高いんだよな。
ファンから搾り取るだけ搾り取る。絞られるファンに対する愛は……市原たちには無いのだろうか。
やがて、愛のない男市原が出てくる。
いつものようにぼんやりとした、覇気のない表情。
「いや……どうも……」
そつ無く笑い、腰も低い。けれど……それは、謙遜ではなくて卑屈。
「どうぞこちらへ……」
ヒゲの男はそう言って小娘たちを中に導きいれる。前回と同じように。前回と同じ会議室へ。
小娘はあたりの様子をそれとなく観察している。会話の無い社内。笑顔も無く、ちただみんなうつろにパソコンに向かう。
――音楽製作担当とキンダーの残党。さらにはサイゴンプロ。
三つの勢力を束ねる力。倉田にあるのか。そのことは分からないが、社内はどうも暗い。
「花世!」
立ち止まる妹の名前を姉が呼び、そこで小娘も会議室に入った。
白いテーブルにパイプ椅子。会議室には市原がいるだけである。
「ああ、ちょっと待っててくださいね。お茶をお持ちします」
市原はそう言って部屋を出て行った。
「……芝崎とか松木とか……あいつら、上司をなめてやがんな」
丸山花世は言った。
また遅刻。呼び出しておいて、自分たちは絶対に市原よりも先には出てこない。いつでも偉そうにふんぞり返って重役出勤。
「……ムカツクな」
小娘は腹を立てている。大井弘子も顔を曇らせている。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮