むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4
「言いたいことがあれば作品の中で言う。誰が相手でも。そういう勇気がなければお客さんをつなぎとめることって多分できない。これは、このままでいきましょう。変更はしない」
大井弘子ははっきりと言った。シナリオは当然芝崎たちの目に触れることになる。紛糾もするだろう。だがそれはそれで構わない。スタッフの心にすら何かを残せない作品が、いったいどれほどのものをプレイヤーに与えられるのか。
「なあ、アネキ……」
妹は言った。
「キンダーのスタッフって……小せーよな」
「そうね」
「なんで……キンダーにいった奴ってあんなに小せーのかな」
僕のエター。私のエター。俺のエター。
連中は作品にしがみついている。しがみついているのだ。
「……私達には小さくいとおしくみえる作品も、彼らにはそうは見えないのでしょう。それはまるで大きな質量を持つブラックホール。一度その重力に捕まってしまったものは逃れることはできない」
「でもさー。そんなことしてたら……作品こけたら皆死んじまうんじゃねーの?」
丸山花世は思っている。沈み行く船。そのマストにしがみついているものはいずれ溺れ死ぬ。
「あいつら、わかってんのかなー」
魯鈍そうな市原。ヒステリックに転げまわる芝崎。そしてどこか腑抜けた松木。
「これから死ぬんじゃない。もう死んでるのよ、きっと。あの人たちは」
「……」
「キンダーがつぶれた段階で、もう……彼らの業界人としての生命は終わっているんでしょう。社内クリエイターにとっては会社の倒産はレッドカードと同じだから」
「退場宣告か……」
丸山花世は口の中で呟いた。
そう言われれば、キンダーの社員は……話をしていてもどこか会話がかみ合わない部分がある。話をしているのに言葉が触れ合わない。それは連中が死んでいるからなのか。
「……アネキ、この作品……本当に世の中に出るのかな?」
妹はささやくように尋ねた。姉はそれに対して何も言わずに首を軽く振っただけであったのだ。
○タイニー・エター シーン46 回想 場所 公園 時間 昼 ■一矢
ずっと昔だけれど……。
公園の近くに駄菓子屋さんがあった。おばあさんが一人で切り盛りしている店だった。
僕はよくあかりと一緒にお店に行った。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4 作家名:黄支亮