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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編4

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 だが、そうしない。つまり、現場の芝崎や松木は増長しているのだ。それは役員に対しても尊大な態度を取っていた間正三郎も同じ。一方、大井弘子のほうは妹が理解したのを感じ取ったのか、会社での序列についてはそれ以上詮索しなかった。
 上司を上司と思わないで良い。16CCとは多分そういう会社。であれば、外注の人間が芝崎や松木のことを奉らなくても構うまい。
 「さて……それで、ですが……」
 大井弘子は多分相手が自分に対して敵意を抱いていることを知っている。けれどそれには触れない。触れないままに話し始める。
 「今日の打ち合わせですが、いったい何を……」
 「その件ですが……」
 芝崎が言った。不細工な豚のような面をした男。丸山花世はこの手の顔があまり好きではない。
 「シナリオを読みました。それから、プロットも……」
 「さようですか」
 大井弘子はやんわりと言った。そういう言い方をするときが実は姉が一番恐ろしいことを妹は知っている。
 「それでなのですが……」
 芝崎の言葉を大井弘子が不意にさえぎった。
 「その前に……ご存知だと思いますが、私達はブランの三神さんのご依頼を受けてタイニー・エターという作品を作っております」
 何故そういうことを不意に語ったのか。妹にはすぐには分からなかったが、その言葉の効果は特筆に価するものとなる。
 「……」
 芝崎も松木も沈黙する。一瞬、何を言われたのか分からなかったのか。大井弘子は同じ事を繰り返す。
 「ブランではエターナル・ラブの同人版であるタイニー・エターを製作しています。私と妹がシナリオを担当しています」
 大井弘子はちょっと語調が強かった。その言葉の意味を妹は理解する。つまり、
 ――作品の神様に選ばれているのは私達であって、あなた達ではない。
 という牽制であるのだ。そして、牽制球は思いも寄らぬ波紋を作った。芝崎が突然激昂したのだ。
 「何ーッ?」
 芝崎に合わせて松木も言う。
 「何だって?」
 それは狂気の炸裂であった。頭のおかしな男達の突然の暴発。丸山花世ですら男達の剣幕に一瞬たじろいだ。
 「知らねえッ! 俺達は聞いてねえぞッ!」
 芝崎は唇を震わせ絶叫し、松木もヒステリックに喚いて机を叩いた。
 「いったいどういうことなんだ! ああッ?」