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灰かぶり王子~男女逆転シンデレラブストーリー~

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第2章


 まだ夜も明けきらない、静かな朝。
「ちょっと!シンデレラ?シンデレラ?何処にいるの?」
 否、このミッディール邸には女の叫び声が響いていた。継母の次女であるジャンヌが、騒々しく屋敷の廊下を駆け回る。
――ああ…もううるせぇ。
 ジャンヌの声で目が覚めたアールイである。朝から騒々しいことこの上ない。ベッドから起き出しカーテンを開ければ、空はオレンジと紫のグラデーション。アールイは出窓を開け放す。2階の窓から身を乗り出す。庭にいる鶏の1羽が、寝ぼけているのか「コケ?」と一声鳴いた。あれは確かアリスだ。ふと時計を見ればまだ朝の4時だった。
――そういえば。
 いつの間に眠ってしまったのだろう。寝ぼけた頭を無理やり起こし、昨夜のことを思い出す。
――そうだ。
 昔のことを思いだしていたら、急に睡魔に襲われて。それで、眠ってしまったのか。
 ドアの外から聞こえてくる足音が段々大きくなっている。アールイがそのことに気付いた次の瞬間。
「まだ寝てたの!?ほら早く脱いで!!」
 ドアが勢いよく開いて、大きな声で叫ばれたアールイは耳を塞ぎたくなった。
――この距離でその声はねぇだろ……。
 げんなりするアールイに は重ねて叫ぶ。
「早く脱ぎなさい、って言ってるでしょ!?」
 アールイはジャンヌに対し、恋愛感情や性的欲求を感じたことは一切なかったが、しかしそれでも、此処は一応男であるところのアールイの部屋であり、義姉ではあるが一応異性であるところのジャンヌと二人きりな状況なわけで。
 どう考えても間違いが起きるとは思えなかったが、何故か躊躇してしまうアールイである。
「何で脱がなきゃいけねんだよ」
「あなたに頼みがあるの」
――何だこのめっちゃイイ笑顔。ヤな予感しかしねぇ。
 ニコッ、と効果音が付きそうな程綺麗に笑う義姉の姿に、アールイは悪寒がし冷や汗を掻いた。ざりっ、と後ずさったアールイは、自分の後ろには出窓しかないことを知っている。コツン、と、靴の踵が壁に当たった。
――げっ。
 絶体絶命。みるみるうちにアールイの顔は青ざめていく。口はまるで魚のようにパクパクと開閉を繰り返し、首は幼子が「イヤイヤ」をするように左右に繰り返し振られている。
「ちょっ、マジやめ…」