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灰かぶり王子~男女逆転シンデレラブストーリー~

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 思い出すと泣けてきた。母もリズも、違う意味で手の届かない存在になってしまった。母はもう二度と会えない。そしてリズには違う意味で会えないのだ。今となっては「王子」という立場に未練はない。しかしリズとの唯一無二の接点が断たれてしまった以上、リズに会うことは許されないのだ。
 向こうは王家。そしてこちらは貴族は貴族でも男爵家だ。男爵家の子息が一国の王女に会う機会などたかが知れている。そしてそれを普通「会う」とはいわない。アールイはリズを遠くから「見る」ことしかかなわないのだ。そう考えると、涙が止まらなかった。
「ん…」
 アールイはベッドに倒れ込んで声を殺して泣いた。そして、嗚咽が聞こえなくなったかと思えば規則正しい寝息が聞こえてきた。
「みゃー」
 クリスはベッドから降りると、アールイの部屋から出た。部屋の外には継母のアテナがいた。
「彼を眠らせるなんて困った猫ね」
「みぃ?」
 クリスは意味が分からないとでもいうかのように首を傾げた。
「惚けたって無駄なんだから。彼は今日はもう目を覚まさないんでしょう?ディッシー」
 アテナは、今は眠っている黒猫の飼い主が付けた名ではない名で、黒猫を呼んだ。それが“彼女”の本当の名前だとでもいうように、それが当たり前のように呼んだ。ディッシー、と。
「みゃー」
 黒猫も当たり前のごとく、それに返事をするかのように鳴いた。
「いらっしゃいディッシー」
 アテナは両手を前に差し出す。黒猫はアテナの腕に飛び込んだ。
「ご飯をあげるわ」
 アテナは先ほどのアールイとはまた違った優しさを孕んだ声で、胸に抱いた黒猫に話しかけた。