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灰かぶり王子~男女逆転シンデレラブストーリー~

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「あなた何でも出来るんだから、ドレスくらい作れるでしょう?」
 ドレスくらい、とは言ってくれるものである。
 実際、アールイは何でもできた。
 城では自分でするなど考えもしなかった料理や裁縫の才能をこの5年間で見事開花させた。
 しかし、いくら才能があるとはいえ、普段の家事だけでくたくたになるのである。そこへ、あと1ヵ月もない舞踏会のためにドレスを作ることを加えたら、寝る時間がなくなってしまう。
 アールイは義姉とはいえ、他人のためにそこまでする勤労奉仕の心を持ち合わせてはいなかった。
「俺はあんたらの召使いじゃねぇんだよオネーサマ」
「何よ!シンデレラのくせに!!」
「うるせーよ。キイキイ騒ぐんじゃねぇ。あんただけ昼メシ抜きにするぞ」
 まさに売り言葉に買い言葉。アールイは義姉に包丁を向けた。
「うっ…とにかく!ドレスは作ってもらうわよ!!」
 怯んだ義姉は半歩ほど後退り、捨て台詞を吐いて台所を後にした。
 アールイは義姉が今まで此処にいたのが嘘であるかのように下ごしらえを始めた。
 そして、この日の夜。
「…美味いか?」
 そう優しく微笑んで、黒猫に手でミルクをやっているのはアールイだった。それは継母たちには決して見せない表情(カオ)だ。
 この黒猫がミッディール邸にやって来たのは半年前だ。
 アールイはその日、継母に言われて近くの仕立て屋に頼んでたドレスを取りに行った。
『…幾らだ?』
『十五フランでございます』
 アールイは帰り道を急ぐ。家へ帰っても仕事はまだあるのだから。
四年もやっていると、家仕事が板に付いてきたアールイである。クオリティが上がり、速度が上がった。アールイはミッディール家の料理人であり家政婦であり針子であった。
『みぃー』
 そんなアールイの帰り道。風の音や婦人たちの話し声に混ざり、聞き覚えのない“音”がした。
『みぃー』
 まただ。いつも通っている道である。まるで何かの鳴き声のような――そこまで考え、アールイは一つの可能性に思い至った。――まさか。
 アールイはその“音”のする方へ歩いていく。アールイの予想は見事的中した。そこには一匹の赤い目をした黒い子猫がいた。否、捨てられていたのだ。
『みぃ?』