灰かぶり王子~男女逆転シンデレラブストーリー~
第1章
この日、アールイの機嫌は悪かった。
「チッ」
アールイは昼食の買い物から帰ると、買い物籠を台所に置いて溜め息をついた。
近々、王子の結婚相手を決める舞踏会がある。年頃の娘たちが浮き足立つ中、アールイは近くに住む娘たちに、
『シンデレラは王子様と結婚するんでしょ?』
『シンデレラが舞踏会に行くなら私たちに勝ち目はないわね』
と笑われた。
その娘たちを無言睨み付け、アールイは舌打ちして帰ってきた。
舞踏会は今月末に開かれる。王子の結婚相手を決めるために、国中の年頃の娘たちがこぞって、あの城壁に囲まれた城下町へと足を運ぶのだ。
王子は大層な美貌の持ち主だという。王子と結婚すれば、玉の輿で、王家に名を連ねることができ、何といっても美しい王子を独占できる。一石三鳥だ。
しかし王子は女に興味がないのか何なのか、どんなに美貌を持つ女が誘っても、一切手を出さないそうだ。巷では「男色趣味なのでは」という噂が流れている。
そこへ先ほどの娘たちの台詞である。アールイにとっては、まさに冗談ではなかった。アールイにそんな趣味はないのだから。
ペテロアーヌ王国に住む年頃の娘たちは皆、舞踏会で王子の目に止まるために美貌を求める。上級貴族の娘たちはエステティシャンやマッサージ師、針子を雇い、この辺りに住む下級貴族の娘ですら新しいドレスを仕立て屋に頼んで作らせる。
そして勿論。
「シンデレラ、舞踏会のために新しいドレスを仕立てて頂戴」
アールイが昼食を作ろうと買ってきた材料を籠から出していると、一人の女がやってきた。
「あ?んなモン近所の仕立て屋にやらせろよ」
仕立て屋に頼む金がないなんてはずがない。下級とはいえ貴族なのだから。
「だって舞踏会が近いからみんながみんな仕立て屋に行くんだもの」
腰に両手を当てて当たり前のようにそう言ってのけるのは、アールイより1つ年上の継母の次女だった。
「んなこた知らねぇよ」
肩に掛かる、母から譲り受けたプラチナブロンドを右手で払い、義姉はアールイを見据える。
作品名:灰かぶり王子~男女逆転シンデレラブストーリー~ 作家名:秀介。