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A-2



 石を投げつけられていた私を警察の介入という形で救ったのは、若く美しい女性でした。
 私は礼だけを告げて早々に彼女の元から立ち去ろうとしていたのですが、彼女から意外な言葉が発せられたので、立ち去るタイミングを失ってしまったのでありました。

「蔑まれたいんですか?」
 彼女がそう私に疑問をぶつけてきた時、私は力なく笑うことしか出来ませんでした。
 一体私の何をどうこの女性に説明すればいいというのでしょうか。また説明する必要があるでしょうか。ありはしません。何もありはしないのです。
「蔑まれると気持ちが楽になりますよね。ああ、生きていてもいいんだって思えます。いつ死んだっていいけど、自殺するわけにはいかないような人間にとっては一種のセラピーです。そうは思いませんか?」
 私が黙っていると、女性はそんな事を言うのです。私はびっくりしました。そのような事を、見ず知らずの――しかも浮浪者である私に突然言い出したのですから。
「あなたも蔑まれているのですか?」
 私は自分の声が震えている事に気が付きませんでした。けれど私の唇は、声は、確実に震えていたのです。
 彼女は私の方を振り向くと、にっこりと笑ってこう答えました。
「えぇ、毎日」

作品名: 作家名:有馬音文