穴
B-2
なんでこんな事を話しているのか分からない。
けれど口はハムスターが回す車輪のように、その動きを止めはしなかった。
「あたし、ある教団にいたんです。『新興宗教 穴』って聞いたことありませんか? 最近ワイドショーなんかでも話題になってるんですけど。あの『自我に穴を開けて、自己を昇華すれば、やがて魂は天へと昇る』っていう教義のあれです。あたしはそんなものには興味はなかったんですけど、妹が入ってしまったから。妹を取り返す為に私も入ったんです。でも妹だってそんな宗教に何かこれっぽちも興味なんてなかったと思う。だけど妹が好きだった男が、妹を誘ったんです。ノルマ達成のために」
男は黙って私の話に耳を傾けている。あたしはそれを良しとして、言葉を続けた。ずっと自分の中に溜まっていた膿。それを誰かに吐き出したかったんだろう。けれどこんな事、誰にも言えなかった。その点この浮浪者はうってつけに思える。自己犠牲の精神を持つ、身寄りのない人間。言いふらされる心配のない、見知らぬ他人。
「妹が好きだったあの男に促されるがままに、あたし達は教団に入りました。妹はあの男の元に近づけただけで幸せそうでした。あたしからしたら無機質でアオジタトカゲみたいな顔で、ちっともイイ男には見えなかったんですけど。でも、妹が幸せならそれでよかった。妹はいつも言っていました『彼は本当はあんな人じゃないの。もっと優しくてよく笑って。でも教団に入ってから変わってしまった。だから私が彼を取り戻すの』って。そう言う妹は不幸には見えなかったから、あたしも教団での生活を続けたんです」
小さく息を吐いた。ここから先を本当に話していいものか躊躇った。だけど舌はくるくると動き始めた。あたしは話したいのだ。だれかに聞いて欲しかったのだ。そうして洗い流したいのだ、全て。自分の命も、きっと――――
「でもあたし達は教団に馴染めなかったんです。当然ですよね、だって妹が心酔していたのは教義ではなく、ただの自分が惚れた男だったんだから。あたしだって妹を救いたいだけだったから、異質な存在であるあたし達に教祖は言ったんです。『彼女らに穴を穿ちなさい』言われたときは意味が分からなかった。分からないまま地下にある懺悔室に妹と二人入れられて、そしてその後……あたし達二人は教団の男数人に強姦されたんです」