夢の館
先の見えない階段を上る。行きに通った道だというのに、今では全く違う道に思える。もしかしたら、扉を開いた先には別の世界が広がっているのではなかろうか。そんな幻覚すら頭を過ぎってしまう。
気づけば扉は目の前にある。
固く閉ざされた扉をAは必死になって押した。何度押しても、どんなに力を込めて開かない。後ろから追いかけてくる恐怖で発狂しそうになりながらも、Aは必死でそれを堪えてようやく気づいた――内鍵が掛かっていることに。
慌ててAは鍵を開け、そのまま扉を力一杯押して外に飛び出した。
扉を出来るだけ静かに閉め、その場から逃げようとして足を踏み出し、扉に鍵をかけ忘れたことに気づいて足を戻した。
鍵をどこにしまったのか思い出せない。ポケットや懐を順に調べて、やっと鍵を見つけて扉に鍵を掛けた。
そして、歩き出そうと振り向いたその先に――大男は立っていた。
何も言わずただAのことを見つめている。
その瞳はとても物悲しく、口は何かを言いたげに震えている。
混乱に陥っているAは言い逃れの言葉すら出ず、ただその場から逃げることしかできなかった。
作品名:夢の館 作家名:秋月あきら(秋月瑛)