一生懸命頑張る君に 1
Episode.1 Opening part1
―――・・・琥瑦が陸上を始めるきっかけになったのも、やはり武隆であった。
琥瑦と武隆は二人とも走ることが好きだった。
武隆がいなければ、琥瑦は走ることを続けたりはしなかっただろう。
近所では「琥瑦ちゃんも武隆ちゃんも脚が速いものねぇ」「将来はオリンピックで走ったりするのかしら」なんて言われていたものだった。実際、二人とも、運動会では常に代表選手を任されていたし、学年でも一位二位を争っていた。
その頃、琥瑦と武隆は陸上クラブに所属していた(部活の小学生版のようなものである)。
陸上クラブでも、登校下校の時でも、遊ぶ時も、二人は走っていた。
走るのが好きだった。ただ単純に。
しかし、それも徐々に変わっていった。
周りは、徐々に「足が速い」ということを褒めなくなった。
小学六年生の頃だった。琥瑦は走ることに意味があるのか分からなくなってきていた。
その頃、琥瑦のタイムの伸びがあまり良くなかった。
「なんで今まで俺は走ってきたんだ・・・。」
武隆は、そんな琥瑦に何の言葉もかけてやることができなかった。
ある日、日に日に無気力になっていく琥瑦を武隆が呼び出した。
「なぁ、お前、もう陸上やらないつもりかよ」
「やって何の意味になる?もう、俺は成長は望めないし、それに・・・」
琥瑦は俯いた。その目には涙が浮かんでいた。
「それにってなんだよ!!お前は走るのが好きだったろ・・・」
武隆は大声を張り上げた。武隆が怒鳴るなんて、滅多にないことであった。
「・・・ごめん。武隆、俺はもう、陸上を続ける気はない・・・」
そして、琥瑦は陸上をやめた。
そんな琥瑦を見て武隆が拳を握り締めたことは、誰も知らない。
小六の冬だった。
作品名:一生懸命頑張る君に 1 作家名:雛鳥