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一生懸命頑張る君に 1

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Episode.0 昔話の始まりに



当日もとても強い日差しが降り注ぎ、全くと言っていいほど雲のない青空が広がっていた。
佳奈美はハチ公前で、腕時計とにらめっこしていた。
とはいえ、まだ時間の30分前なのだが。

半袖の男女が行きかう中、佳奈美は一人、黒いスーツという、どう見ても場違いな格好でいた。彼女はそんなことは気にしないのか、質問の内容を繰り返しては、ため息をつき、周りを見渡すことの繰り返しだった。

暫くすると、田中琥瑦が現れた。佳奈美は恐ろしく緊張した。
心拍数が上がって、手は汗でベトベトだった。
インタビューでこんな風に緊張するのは初めてだった。

彼は、彼の妻であろう人と一緒にやってきた。
琥瑦は思っていたよりもしなやかな体つきをしていた。
それでいて何か包み込むような、心のしなやかさのようなものが滲み出ていた。
これが天才スプリンターと呼ばれる人か・・・彼は、内に秘めた炎のようなものを持っている、と佳奈美は感じた。
彼の妻(だろうと佳奈美は思っている)にしてもそうだ。佳奈美は、緊張の中、ぼんやりとそんなことを思っていた。

「田中琥瑦選手ですよね。初めまして、フリーライターの下田佳奈美です。本日はお忙しい中―――・・・。」
「そんなに気を遣わなくてもいいですよ。見たところ、同じくらいの年ですし。・・・ああ、こちらは私のツレの鈴木紫乃です。勝手に呼んでしまってすみません。」
紫乃は佳奈美にペコリと頭を下げた。
琥瑦も紫乃もとても親しみやすそうに佳奈美は感じた。
「いえいえ。個人的にやっているライターですから。・・・さて、では、場所を変えましょうか」
佳奈美自身、緊張がほぐれていくのを感じていた。


・・・都内の某ホテルの一室。
「では、本題に入らせていただきます。」
どうぞ。と琥瑦はにこやかに促した。
「田中琥瑦選手は昔から足が速いことで有名だったそうですね。昔から誰かライバルのような方はいらしたのですか。」

一瞬、彼の表情が硬くなったのが分かった。
琥瑦だけでなく、紫乃もまたそうであった。
彼は、窓に目をやって、思考を巡らせるようなそぶりをしてから、決断したように佳奈美と向き合った。

「いました。彼の名は工藤武隆といいます。彼は、僕の恩人でした―――・・・。」

作品名:一生懸命頑張る君に 1 作家名:雛鳥