夢と現の境にて◆参
「好きだ。」
狭霧の動きが止まる。緊張も恐怖もあるこの中で俺は決意していた。このまま終わらせたりしないと。誤解を受けたままこの気持ちをあやふやにさせないと。自分を、信じてもらわなければ、と。
「俺は、狭霧が好きだ。それが理由だ。」
睨んでいた狭霧がぽかんとした顔になっていた。そして理解ができない信じないとでもいうかのように首を振り始めた。俺から離れるかのように後ずさると、顔を覆って泣き始めてしまった。居た堪れなくなったが、これを認めてもらわなければと再び狭霧に近づこうと歩もうとした。そんなところでまた千代が俺の服を掴んで止めた。振り返ると、いつの間にかばあさんが廊下の奥でこちらを見ていた。
「今日は、」
小さな声が下から聞こえた。聞きなれない少女の声。
視線を下げると千代がいつもと変わらぬ無表情で俺を見ていた。今度はこの手を振り払うことができない気がした。そう悟れば、一度狭霧を振り返ってみた。今、今こそ彼を抱きしめて、叶えるべきではないのだろうか。そう思ったところでぐっと自分の唇を噛んだ。違う。まだ終わらせてない、分ってない、分かり合えてないことがある。だから、今はいけない。
二人に軽く頭を下げて家を出た。一番に言うべきことはいったはずだ。これが、これが最後のはずないじゃないか。眼の奥が熱かった。時折視界がぼやけた。けれどそのおかげで運転中、俺の目が乾くことはなかったけれど。しかしそんな時、俺はもう一つ本当に大事なことに気が付いたのだ。
まだ、終わらせていないことがある。
告白した自分が、一番解決しなければいけないことであることを。
最初から見直さなければいけなかった事だ。
そう、俺と狭霧がで会ったあの日から。