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高い空の青い色は

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「実績評価とかねぇの? 静流、賞とかとってるだろ」
「それが通用するのは推薦だけだよ。で、推薦は私学しかやってない」
 うちは宗司の家ほど裕福ではないから、やたらと学費のかかる私学美大は出来れば避けたい。どうしてもと言えば、もちろん行かしてくれるだろうけど、そこまで親に負担をかけたくはない。
「でも、大丈夫だって。静流なら」
 そんな根拠のないセリフだが、宗司から言われると何となく自信になる。

「ちょっと着替えるから」
 宗司の部屋なのだから当たり前なのだけれど、学ランを脱ぎ始める。
 目を背けるべきか、ガン見するべきか迷ったけど、チラ見で妥協した(ガン見したかったけど)。
 タロは着替えの邪魔にならないよう宗司から離れ、俺の方に寄ってきた。構ってほしいのだろうと思い、頭を撫でてやると手を舐められた。吠えないし、賢いし、人懐っこいし、宗司が溺愛するのもわかる。

 背から尻にかけてのラインがキレイだよな……とか俺が思ってるなんてことなど知らない宗司は、堂々と学ラン、シャツ、ズボンと脱いでいく。ボクサーパンツか……似合ってるな。尻のラインがよくわかるし。
 ダメだ。どんどん妄想が膨らんでしまう。だから、最近は家に寄らずにいたのに。

「で、どうする?」
「は?」
 少しだけ妄想に浸っていた俺は、宗司が着替え終わり、声をかけて来たのにぼーっとした返事を返してしまう。着替え終わったのを待つかのように、タロは宗司の足元にまとわりつく。本当に懐いてるな。
「何か、話あるんだよな? 俺も話あったんだよな、そういえば。とりあえず、コーヒーでも持って来るわ」
 スポーツジャージに着替え終えた宗司のシャツから覗く鎖骨にまたもや脳内妄想に浸りそうになったが、なんとか振り切り、
「うん」
 と答える。ちょっと挙動不審だろうか。

 部屋を出て行く宗司の背中と当然のようについていくタロを見送り、息をつく。
 こんなに好きなのに、鞄の中に入っているチョコレートをどうするか、どのタイミングでどうやって告白すればいいのかわからない。
 今まで、告白なんてしたことがないから、こんなに緊張するものだとは思わなかった。相手は昔から知っている宗司だというのに。
 まだ、女の子なら簡単だったのかもしれない。でも、男に告白なんてどうすればいいのかわからない。宗司が女の子だったら……。
 ちょっとそんな想像をして、宗司が女の子だったらカッコいい雰囲気の娘《こ》になるのかな。それもいいな、と思ってしまう俺は相当終わっているのかもしれない。


「静流。ドア開けて」
 ドアの向こうから宗司の声が聞こえる。
「おお」
 声に従いドアを開けると、コーヒーカップを載せたトレーを持つ宗司とシュガー、ミルク、マドラーが入った籐籠を口にくわえたタロが入ってくる。
 部屋の中央付近にある折り畳み式のテーブルにそれを置くと、下座に宗司は座る。必然的に俺は上座に座ることになるのだが、そういうことを気にする間柄でもないので、素直に主人扱いで上座に座りコーヒーカップを受け取る。
 タロはそれに続いて、机の上に籐籠を置いてくれる。
「タロ、ありがとう」
 そう言って、タロの頭を撫でる。尻尾を振って返事をしてくれている。そして、宗司の隣にお座り。定位置みたいだ。
 宗司はブラック派なので、そのままでコーヒーに口をつけるが、俺はブラックのコーヒーは苦いとしか思えないので、ミルクとシュガーをたっぷり入れる。
 コーヒーの匂いと温かさが少しだけ俺に落ち着きを取り戻してくれるような気がする。
 でも、目の前に宗司が居る限りこのドキドキが完全に消え去ることなんてないのだけれど。


「そういえばさ、今日、バレンタインデーだったから、結構チョコ貰ったんだけど、静流も貰った?」
 そう言いながら、宗司は鞄から貰ったチョコレートをポンポンと取り出す。チョコという単語にドキッとする。
 俺のカンでは、本命七割、義理チョコ三割と見る。包装がやたらとお手製のものが多い。
「貰った」
 宗司が出してきたチョコレートに「何の蟠《わだかま》りもなく渡せるなんていいよな」と、半分言いがかりのような感情を覚える。
「今年も告白とされたんじゃないの?」
 さりげなくリサーチ。
「まぁな。イベントだから仕方ないけど、知らない奴からいきなり告られても、困るだけなんだけどさ。断るの結構面倒なんだぜ。告る前にまず知り合いか友だちになれっての」
「……知ってるヤツなら困らない?」
「少なくともそいつのことを知ってるんなら、考えて返事できる、っていうのもあるし、お互い知ってるから変な誤解も生まれないし」
 それじゃ、俺からの告白は困らないと思っていいのか? といいように考えたが、これはおそらく女の子の話だ。期待しないようにしないとショックが大きい。
「静流も告ったりとかされたんじゃねぇの?」
「え? 俺はそんなのないよ」
「お前、そういうの鈍そうだからなぁ。多分チョコに手紙とか入ってるぜ」
「そうかな」
 たとえそうであっても、俺の場合は困るだけで返事もできないわけだけど。本命は目の前にいるから。

「せっかく貰ったもんだし、チョコレート食うか?」
「え?」
「コーヒーにチョコレートって相性いいだろ。スイカに塩みたいな」
 そう言って宗司は封を開けると、タロが食べ物の匂いにつられて物欲しそうにしている。
「タロはダメ」
 宗司は手をタロの口元で垂直に立てる。一言で諦めたようだ。
「本当に賢いな」
「賢いだろ? ちゃんと言葉がわかるからな」
 いいな、タロ。そんなにベッタリと宗司とじゃれ合って。俺らもじゃれ合えるような仲ではあるけど、もう俺の方に下心があるわけで、前みたいに純粋にはいかない。

「で、食う?」
 チョコレートを差し出す。
「それ、宗司にって貰ったもんだろ」
「まぁ、食いもんだから、いつかは誰かが食べないとだろ? 一つ、二つならいいけど、俺、そこまで甘いもん食べるわけじゃないし。お前は好きだろ? いいチョコレートほど賞味期限が短めなんだよなー」
「そんな……」
 何故か俺のチョコレートも食べてもらえない気がしてショックを受ける。
「ダメだよ。宗司が貰ったものは宗司が食べないと」
「前まで喜んで食ってたじゃん」
 それは宗司のことを好きだと気づく前の話だ。こういうとき幼馴染みというのはやりにくい。
「そうだけど……」
「イヤならいいけどさ。タロにチョコレートは食べさせられないしな。タロが食えるもんくれればいいのにな……とは言えないか」
 さして気分を害した風でもなく、そう言って宗司は封を開けたチョコレートを一つ口に放りこむ。国内有名ブランドのチョコレートだ。
「これはうまいな。やっぱ市販品は安心できる。手作りはうれしいっちゃあうれしいけど、デキは賭みたいなもんだからな」
 俺の気もしらないでそんなことまで言う(言ってないのだから当たり前で、これは言いがかりだけど)。


「そう言えば、話って何?」
 いきなり核心を突く問いかけが出てきて、思わず身体がビクッとする。
「何? 結構深刻な話?」
 深刻といえば、これほど深刻な話もないかもしれない。でも、迷惑な話でもあるかもしれない。
作品名:高い空の青い色は 作家名:志木