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高い空の青い色は

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「はぁ……」
 教室の窓辺で外を眺めながらため息が出る。
 昼休み。この寒空でも校庭で元気にサッカーをして走り回る一団を眺めながら、ある一人を目で追いかける。
 学年でも一、二、いや、学校でも一、二を争う、イケメンと言われる男子を。

 ―――東江宗司《あがりえそうじ》。
 顔がよくて、スポーツもできて、勉強も出来る。そんなヤツ、俺みたいなヤツには友だちになりたくてもなれない。でも、宗司は俺の幼馴染で腐れ縁だ。子どものころから知ってるだけに、その外見だけでなく、性格も知ってる。ガキ(って今も世間ではガキの範疇だろうが)のころは、「宗ちゃん」「しいちゃん」と呼び合っていた仲だ。いつのころからか、普通に名前呼びに変わってしまったが。

 幼馴染に恋をする。しかも男―――。
 これが恋と気づくまで結構な時間がかかった。認めるのにも勇気がいった。
 でも、気づくと止められないのが恋ごころと言うものだとも知った。

 俺、柳原静流《やなぎはらしずる》は大きな決意を胸に秘めている。
 高校生活最後のバレンタインデーに宗司に告白をすると。
 想っているだけでも罪悪感に苛まれ、告白したところで望みなど皆無だけど、高校最後という言葉が俺の気持ちを後押しをするのだ。

 普通は男がバレンタインに告白するもんではないが、最近はそういうのも増えてるらしいし、俺の場合「相手が男」ってんだから、「女の子が好きな男に告白する」[#「好きな男に」に傍点]の主語の部分を省略すれば趣旨には沿っているはずだ。そう無理やり解釈する。
 さいわいにして俺は甘いものは好きなので、チョコレートにもちょっとうるさい。自分でチョコレートも作れるくらいだ。
 でも、男の手作りチョコレートなんて引かれるかな。いや、世の中のチョコレートブランドの多くは男のパティシエによるものだ。よって、男がチョコレートを作るのはちっともおかしくないと自分に言い聞かせる。作るのがおかしくないのと、それをプレゼントするのとは全然違うことではあるけど。

 昨日、材料を調え、手早く生チョコを作る。
 弟妹《ていまい》たちに「何作ってるの?」と訊かれたが、適当にごまかしつつ、クッキーを焼いてあげて誤魔化した。
 宗司はそんなに甘いものが大好物という訳ではないので、ココアパウダーのものと、抹茶パウダーのものをどちらも甘さ控えめ。
 それを恥ずかしい思いをしながら女の子ばかりの雑貨屋で買った包装紙に包み、どこからどう見てもバレンタインチョコレートの出来上がり。
 メッセージを入れるべきが迷ったけど、結局|包装《ラッピング》だけにした。

 今、鞄には包装《ラッピング》されたチョコレートを忍ばせている。
 宗司は朝から女子に義理チョコ、本命チョコ選り取り見取りで受け取っていた。それを横目に、俺は渡す勇気を持ち合わせていなかった。
 俺も、義理なのか何なのかわからないチョコをいくつか戴いたりもした。中には高校生がこんな高級ブランドのチョコレートを貰っていいのかな? というものもあった……。今の俺にはこんなものは貰っても困るだけなんだけれど。


 放課後の皆が三々五々帰路に着くざわついた校内で、意を決して声をかける。
「宗司。ちょっと時間ある?」
 内心どぎまぎしながらだけど、顔には出ていないと信じたい。
「何?」
 幼馴染って幼少の頃からの知己な訳で、こうやって顔を合わすのは数えきれないくらいあるというのに、いざとなると、どうでもいい話題を出して逃げ出してしまいたくなる。けど、幼馴染なので、普通では使えない技もあるのだ。
「今日、宗司ん家《ち》行ってもいい?」
「別に断らなくても勝手に来ればいいじゃん。母さんも喜ぶしよ。前までよく来てたのに」
 宗司のことを意識し始めてから何となく罪悪感があって、ちょっとだけ以前より距離を置いてるかもしれない。
「久しぶりに行くよ」
「おお。つーか、何の用があんのか知らないけど」
「用っつうか……話が……あるというか……」
 若干キョドりながら目をそらしてしまう。
「ま、いいや。部も引退してヒマになったし、帰ろうぜ」

 バカみたいにドキドキしながら、宗司の家へ向かう。その間中、その先のことを考えて、どうしようか、鞄の中に入っている(今は貰ったものと混ざっている)チョコレートに思わず話しかけそうになってしまうほどテンパっている。
 損《そん》なこととは露とも知らない宗司は、久々に一緒に帰るからか、やたらと話してくる。今日あったこと、最近の出来事などなど。
 受け答え一つも意識して大変なんだということを、当然宗司は知らない。知らないから仕方がないのだけれど、ちょっとは俺の気持ちもわかってくれと理不尽な要求もしたくなる。


 見慣れた宗司の家《うち》。一戸建ての二階建てロフト付き木造家屋。一階の吹き抜けが、マンションの俺の家と違って開放感がある。
 元々中学までは宗司も同じマンションに住んでいて、しかも隣だったが、徒歩で二十分くらいのここに新築で家を建て引っ越した。引っ越した日から、自分の家のように招かれ、宗司の部屋の片づけを手伝ったのも懐かしい思い出だ。

 宗司の家に着くと、宗司の母親と宗司が可愛がっている愛犬タロに迎え入れられる。タローではなくタロ。
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
「おかえり。あら、静流君。いらっしゃい。久しぶりねー。相変わらずうちのと違って可愛いわねー」
 何をもって可愛いのかよく分からないが、宗司の母親にはいつも可愛いと言われる。宗司が一八〇越えの長身で、俺は小柄な一六〇台半ばなので可愛いと言われるのだろうか。男としてもう少し身長は欲しかったけど。
 ゴールデンレトリバーのタロ(雄)はとても人懐っこいので、久しぶりの俺に対しても大喜びで尻尾を振ってくれる。頭を撫でるとすり寄ってくる。ゴールデンの名の通り、金色の毛なみの手触りが気持ちいい。

 勝手知ったる宗司の部屋に入る。タロも宗司の足下について一緒に入ってくる。
 床に散らかされた雑誌と整理整頓された机のコントラスト。ホコリやゴミは相変わらず落ちていない。基本的にはきれい好きの宗司らしい。ふんわりと宗司の匂いがする。
「そういえば……大学もう決まってるんだよな」
「そうだな。静流との腐れ縁もここまでかー……」
 宗司と俺は大学は別々になるのだ。宗司は陸上の強い有名私立大にスポーツ推薦が決まっていて、俺はまだ下に弟妹がいることもあり、学費のあまりかからないデザイン学科のある国公立大を目指している。

 だからもうすぐ宗司の学ラン姿も見納めだ。この凛々しくもストイックなエロチズムを感じる学ラン。俺が着ててもそんな風には感じないけど、宗司が着るとそう感じる学ラン。脳内によく記憶しておかなくては。写メを撮らせてもらうか。……なんて言って撮らせてもうらうか思いつかないけど。

「でも、俺、志望校に行けるかな」
「お前、絵、うまいじゃん」
「俺くらいのヤツはいくらでもいるよ。それに美大がいくら実技比率が高いって言ったって、ペーパーもある程度出来なきゃダメだし」
「俺、美術系はわかんねーんだよな。点数やタイムで割り切れない世界だし」
「陸上はタイムがすべてだもんな」
作品名:高い空の青い色は 作家名:志木