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高い空の青い色は

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 俺が黙っていると、
「……静流の話なら何でも聞くぜ」
 優しい声が耳朶《じだ》に響く。

 ここまで来て引いたら、男が廃《すた》る。後悔もするだろう。
「―――これ」
 そう言って、鞄からようやっと本題のチョコレートを手にし、宗司の前に差し出す。ちょっと手が震えてるかもしれないけど。
「ん? 何? チョコレート……?」
「それ……俺からの……。一応手作りで……」
 ちくしょう。告白くらい男らしくハッキリと言いたいのに、しどろもどろだ。
「静流から? まぁ、それは、サンキュ?」
 意味をはかりかねる宗司は語尾が疑問系になっている。当然だ。やっぱりメッセージを付けるべきだったか。こんなにしどろもどろになるとは。
「え……と、そ……の」
 「宗司のコトが好きだ。それだけ伝えたくて」という言葉が出てこない。言ってしまったら、宗司とのこの関係が終わってしまうのを恐れているからだ。でも、もう遅いんだから言ってしまえと思うけど、言葉は出てこない。

「……もしかして、これってそういう意味でのチョコ?」
 何かを察したのか、宗司の方から切り出してくる。
「…………うん」
 潔く堂々と伝えるつもりだったのに、小さい声でつぶやく。
「ごめん……。迷惑なのはわかってるけど、別々の進路になるし……、思い切って言おうと思って。―――宗司のコトが好きなんだ」
 言えた!……けど、語尾は殆ど聞こえていないだろう。宗司の顔を見ることが出来ずに俯いてしまう。
「ごめん。好きになって」
 沈黙―――。実際は一、二秒だったのかもしれないけど、俺には長い静寂に感じた。
 タロが宗司の太股にあごを乗せて身じろぎする布擦れの音まで聞こえてくる。

「冗談……じゃ、ないんだよな。お前、そんな冗談言わないもんな」
 宗司の声が落ちてくる。
「ごめん……。俺、おかしいんだ」
 もう逃げ出したい。
「静流。顔上げろよ。あと、謝んな」
 そう言われて顔を上げる。
 宗司はちょっと困ったような表情をしている。困らせたいわけじゃないけど、困らせるようなことを言っているのは俺だ。
「ゴメン……。気持ち悪いよな」
「だから謝んなって。謝ることじゃないだろ」
 そう言って宗司は困ったように微笑《わら》う。

「……俺、静流のこと好きなのかも……、って思ってた時期《とき》あんだぜ」
「え?」
「いや、今は違うけどな」
 慌てて取り繕う宗司。
「お前、中学の頃は今よりもっと華奢だったろ。今は幾分男らしくなったけど可愛いしな。思春期によくあるカンチガイ」
 そんな風に宗司に思われていたとは、と思うと同時にちょっと焦る宗司をかわいいなどと思ってしまった。
「今は違うんだよね……」
「まぁ違うけど、告られて気持ち悪いとか思わないから」
 宗司は目線を少し逸らし腕を組む。
 何て言っていいのかわからない、悲しさと嬉しさのない交ぜになった感情が沸き上がってくる。
「だから、泣きそうな表情《かお》すんなって。焦るから」
 優しい否定ってあるんだな。これだからモテる奴は……とも思うけど。
「ありがと。言ったらちょっとすっきりした。でも、俺、女の子なら宗司とつき合えたんだよね」
 ちょっと残念な気持ちがそのまま口をつく。
「……その仮定は無意味だと思うぞ。静流は男だから静流なわけだし。男じゃない静流とこんなに長いつきあいになったかどうかわからないしな」

「でも、俺、ずっと宗司のこと、好きだから」
「ストーカー? ちょっとそれは怖えな」
 宗司は苦笑して言う。
「まぁ、静流なら別にストーカーくらいなら我慢するかな」
「そんな、甘やかしてどうすんの。……ホントにつきまとうよ」
「いいぜ。静流との付き合いは一生モノだと思ってるし」

 絶対に望みなんてない告白だと諦めていた。確かに望みが叶ったわけじゃないけど、こんな風に言ってもらえるなんて考えてなかった。俺が思っていた以上に宗司に好かれてるとわかっただけで、満足っていうか、単純にうれしい。

「それじゃ、静流からの愛の籠もったチョコを見てみようかな」
 いつもの俺たちの会話のペースになって安心したのか、宗司は軽口を叩く。
「恥ずかしい言い方すんな」
「でも、そうだろ」
「そうだけど……」
「そいえば、俺、男からチョコ貰うのは初めてかも。告られたことはあるんだけどな」
「告られたことあんの?! 聞いたことない」
「そりゃ言ってないし、誰にも。そういうごく個人的なことを言いふらすのは人としてどうよって思うだろ」
 こういう言い方されると、誰なのか訊けなくなるじゃないか。宗司は気配りの男なのだ。ちくしょう、いい男すぎて腹立つ。
「俺が初めてじゃないんだ……」
「残念だったな。俺、男にモテるみたいだな」
 男女共にモテるだろ、宗司は。
「生チョコか」
「宗司に合わせて、ビターに仕上げた」
「甘さ控えめ?」
「甘さよりコクがあるようにできてる筈」
 甘いものが好きな俺の味覚と宗司の味覚は微妙に違うのでどうだろうか。
 宗司は一つ生チョコを手に取ると口に放りこむ。
「うまい」
「そう?」
 よかった。
「静流って料理できたっけ?」
「うん。レシピ見れば大体どんなのでも作れる。宗司が作れって言うならいくらでも作る」
「なんだ。それ」
「お弁当でも作ろうか? ……って尽くす男をアピールしてみました」
 悲しいけど、冗談みたいな口調で言ってみる。
「静流の弁当か。食ってみたいけど、俺にそんなに尽くしてもいいことないぜ」
 宗司の笑顔。その笑顔に俺は惚れたのに。宗司は無防備だ。
「いいんだ。それは。俺は、宗司を好きでいることを許してさえくれれば」
 うーん、と宗司は唸った。

「気になったんだけどさ、静流って男が好きなの?」
 コーヒーを口にしながら、何でもないことのように言う。
「え?」
「俺のこと好きってことはそうなのかなって」
「……」
「変なこと訊いた?」
 変なことじゃないかもしれない。当然の疑問なのかもしれない。よくわからない。

「わからない。自分でも……。宗司のこと、好きだから、そうなのかもしれないと思うけど、別に他の男に興味があるわけじゃないし……。でも……」
「でも?」
 俺が言いあぐねていると、宗司は言葉を継いでくれる。
「前は何ともなかったのに、宗司の……、裸とかすっげー興味あるし、宗司が走ってるところ見てるとドキドキするし……。それ以上のコトも考えてる……」
 宗司から目を逸らし、考え考え、口にする。少し興奮気味。落ち着け自分。正直に言い過ぎだろと心の中でブレーキをかける。
「そうかー……それじゃ、―――」
 宗司が言いかけた途中で、あごを宗司の太股に乗せてくつろいでいたタロが部屋のドアの前にたたっと移動しお座りする。
「ん、タロ、どうした?」
 宗司が声をかけると同時に、ノックがする。

 ―――何を言いかけたんだろう。

作品名:高い空の青い色は 作家名:志木