バルコニーの向こう
++R-03
いつもの食事はパンと水と果物一つ。でも今日はパーティとかいうやつがあるので珍しくハムが添えられていた。そんなに厚いわけでもなくとても薄いハムだったが、リアンはとても喜んだ。
「今日はね、ハムがあるよ。あとサクランボが2つ」
小さな皿に乗せられた食事をいつもの手すりに腰掛けて待っていたツヴァイのほうにかかげて見せる。
いつもおいしそうに食べてくれるから今日は一層喜んでくれると思ったのだが、なぜかツヴァイの顔は暗い。
「お前は何か食べたのか?」
リアンがハムは嫌いだったか尋ねる前に先を越される。リアンは首を振って答えた。
「うん。いつもこれに水とパンがあるの。だからこれはツヴァイの分」
リアンはそれほど食事に執着はない。飢えない程度に食べられればそれでいいと思っていた。昔はそれでもおいしいとかおいしくないとかあったような気がするのだが、今では何を食べても同じ味に思える。
いつからかリアンにとって食事は一日の通過儀礼に過ぎず、だからおいしそうにそれを食べるツヴァイを見るのがおもしろくて好きだった。
「お前が食えよ。もともと俺は吸血鬼だから血以外は食べなくても死なないんだ」
「そうなの?」
そういえば、そんなことを誰かに聞いたような気がする。吸血鬼は奴隷の耳にも入ってくるほど有名で恐れられている生き物なのだ。
「じゃあ、ハムより血のがいい? でもあたしの血っておいしくなさそう」
皿を持つ両手を見下ろす。仕事は主に夜なので昼はずっと眠っているため日焼けしない白い肌。ツヴァイに食べ物をわけていることを除いても、飼い主と比べればずっと貧相な食生活。こんな人間以下の自分の血なんてとてもおいしそうだとは思えなかった。
そんなことを考えていたリアンを見下ろし、ツヴァイは苦笑まじりの溜息をつく。
「血なんていらねぇよ。俺はお前に食べてほしくて言ってんだ」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあお前は食べなきゃ生きてけねぇだろうが」
言っていることがよくわからない。ツヴァイに食事をあげたらツヴァイが喜んでくれて、リアンはそれを喜んだ。だからまた食べ物をあげる。どこがいけないのだろう。パンと水があればリアンは死なないのに。
「迷惑だった?」
その言葉にツヴァイは顔をしかめる。それから無言でリアンの手から皿をひったくり、ハムを手で半分にちぎる。2つで1組になっているサクランボもばらばらにして、それぞれ半分ずつ手にとって残りを皿ごと返す。
「ほら、これで文句ねぇな」
まだよくわからない。それでも渡されたので素直に受け取る。
ツヴァイがハムを口に運び、リアンも真似してちぎれたハムの端をかじる。
「あ、おいし」
今日のハムとサクランボはちゃんと違う味がした。
「なんでだろ?」
「知らねぇのか? 食事は一人より大勢で食べたほうがうまいんだよ」
一つ、勉強になった。
そして今日もこれから仕事。