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Loveself プロローグ~天災編~

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「……分かりました。本当は面倒くさくて口を開くのすら億劫なのですが、貴方がどうしてもというから仕方なく、100万光年分ほど譲歩して、地獄の業火で焼かれるほどの不愉快な気分に陥りながら話しましょう」
「いや、なんか悪かった、うんごめん。本当ごめん。問い詰めてすみませんっした!」
在野に謝られたことを少し楽しく思いながら、俺は話します。


「---『自分』のことを大好きな人間には、気をつけた方がいいですよ」


「……ふえ?待って、意味分からん。自分って……俺?俺のこと好きな人間?あれ、もしかして美少女転校生がクラスにやってきて、実は貴方の許嫁なんです!みたいなギャルゲ的な展開が待ってるの?それは最高だな!」
「いえそうではなく。―――都山留衣や俺、遠坂妃芽のような異常な人間に、あまり深くかかわらない方がいいですよ?……もう遅いかもしれませんけどね」
「……留衣やサクが自分大好きってのはうん、ものすっっっごくよく分かるけど、何に気をつけるんだ?別に『今日から殺し合いをしてもらいます』って担任から言われるとか、修学旅行でバスの転落事故に遭うとかじゃないんだろ?」
……俺が都山留衣と並列に語られるのは心外ですが、彼に免じて我慢しましょう。

「ギリシア神話のナルキッソスは、他人を愛することができなかったために自分を愛する呪いをかけられました」
「あの、サクさん?脈絡ないですよ?」
「そして彼は、水面に映った自らを見て恋に落ち―――その美しさの虜になりその場から動くことも叶わなくなり、そのまま死に行ったそうです」
「え、だからどういうこと?俺歴史さっぱり分からないんだけど。ギリシアってどこだっけ?ヨーロッパ?」
「彼らが自分の美しさ、もとい才能に溺れ、そこに留まることしかしていない時、貴方は余計なことをしてしまう。放っておけば、そのまま相手は死んでしまえるのに」
「……俺ってそんなおせっかい?」
「彼ら、異常な人間と言うのは『他人』を愛さない。―――愛することができない。彼らは代わりに『自分』を愛することしかできず―――その理由をもまた疑わない。そしてそれに対して、いかなる矛盾も感じていない。自分がどうしてこんなに優れているのか、愛おしいのか―――それに対して考えることもない。それがただ生まれた時からの『運命』ででもあるかのように、ただ盲目にひたすらにそう信じるしかない。
たとえば水口在朝は―――周囲を見下すことで、自分を愛する糧にしている―――それに対しての、疑惑など彼はおそらく持っていないでしょう」
そう、そんな普通の感情を、普通に持つことが許されるから。
俺は神などよりも―――普通の人間が好きなのですよ。
もっとも、俺が一番好きなのは、『俺』ですけどね。

「だーかーら、俺は哲学的な話は分からないんだって!つか、なんでそこにトモが出てくるんだよ。あいつはただの俺の弟だって」
「でも貴方はそうではありません。俺にも貴方がどこまで思っているかは知りませんが―――貴方はその『前提』を捻じ曲げる力を持っている。それは愛であったり、他の何かであったりしますが。貴方は『異常』な人間に、本来ならありえない『感情』を抱かせてしまうのです。
―――自分を愛することしかできない人間に―――『他者愛』を抱かせ、心を乱す、そんな、存在なのですよ。
何故そうなったのかはさっぱりわかりませんが……。実際にあの忌々しい都山留衣は貴方の貴方の『力』に半分呑まれているように思えます。これは、一見幸せなことにも思えますが、そうではありません。

それ―――彼らが自分以外を愛すると言うことは、本来なら知らなくてもいいこと、気づかなくてもいい、むしろ気づくべきではないことです。それを貴方は強引にこじ開けてしまう。その先は―――パンドラの箱なのです。必ず宝石が眠っているとは限らない。目覚めたその人物がどんな方向に向かうかなど、誰にも分からないのですから。貴方がその力を『本当に』コントロールできないのなら―――あまり深入りしない方がいい。もちろん、俺にも、ですよ?」

「……悪い、頭痛い。何の物語?サクは作家になれるよ。俺が保障する。分かったからその電波な小説はパソコンに向かって打て、な?」
「……分かりました」
これ以上言ったところで、彼が気づかないのならば何の意味もありません。
これは彼自身のこと―――俺が彼に忠告したところで、彼がその危険性を理解しなければ状況は改善されないのです。

「しかし、覚えておいてくれれば俺としては嬉しい限りです」
「……まあ、覚えておいてもいいけどさ……頼むから今度からはメモに残してくれ、覚えられないよ」
「分かりました」
今度は貴方に分かりやすい言語に直しておきましょう。
もっともそれでも『真の』意味を理解できるかは分かりませんが―――仕方ありませんね。
彼の頭が悪いから、ではありません。
俺が、『異常』、だからです。
俺が、『偉大』で『崇めるべき』存在である人間に、正しく言葉を伝えられるなんて、思えませんからね。
人間が、犬の言葉を理解できないのと同じように。
虫と鳥は、食物連鎖以上の関係を持てないのと同じように―――分かり合えない。
一方的に『愛する』ことはできても―――互いに理解し合うことは不可能なのです
「まあ、理解できた範囲で一応言っておくけど、俺は留衣との『約束』を破るつもりもないし、お前との友人関係を切るつもりもない。だいたい俺はただ付き合いたい奴と付き合ってるだけで、それが『好かれてる』とか言われても知らないっつうの。あとさ、」
彼はそこまで言って一端言葉を切ります。
そして。


「サクは間違ってるよ。だって、サクは俺の友達だろ?そう思ってくれてるだろ?」
「ええ」
「それじゃあさ、それって『愛を理解してない』って、言わないと思うんだ」


……一瞬、言葉を失いました。
俺はどう返せばいいのでしょうか?見当もつきません。

確かに俺は在野の『友人』ですが―――しかし、俺は、人間ではないのですから。

「いやいやいや、何言ってんだ俺!臭すぎて気持ち悪いんだけどさ、家族を思う気持ちとか友達と仲良くしたいって気持ちも一種の愛じゃないの?つか恋愛だって本当に『愛』なんだかわかんないし。つか愛って何よ?この世界に『これはまさしく愛だ!』って定義なんてないと思うんだぜ。ほんの少しでも好きになれる人がいたら、もうそれは別に愛って言ってもいいんじゃない?って思っただけなんだ。サクの考えてることは俺にはさっぱりだけど、サクが普通の人間より駄目みたいなことは絶対無いと思う」
……成程。そうですね。……ああ、ちゃんと理解しました。
やはり貴方は―――異質でありながら、俺たちとは根本的に違う。
貴方は、……少なくとも俺たちと同じ自己愛に浸食されていない。
彼を満たすのがどんな『異質』なのか―――分からないが故に、興味深い。
もっともっと、彼のことを知りつくし―――しゃぶりつくしてみたいものですね。ゆっくりと、じっくりと―――舐めまわすように、ね。

だから俺は、彼に好意を持っているのです。ああ、友情的な意味でもありますし、性的な意味でもありますが。