Loveself プロローグ~天災編~
「……あれ、何だろう……ちょっと俺貞操の危機感じたよ……たすけてえーりん……」
「来るもの拒まず去る者追わずなので安心してください。自分から手は出しません……多分」
「何がどう安心なのか分からない!あと最後の多分は何!?どういう意図が!?」
「しかし、女性は男同士の肉体関係をどうにも美化しすぎるきらいがありますね。
実際にやっていることなど(自主規制)を(自主規制)に(自主規制)するだけだというのに。
それだけの行為のどこに美を見出せるのか分かりかねます。肉欲を満たすためと言うのならまだわかるのですが」
「あれだよ、行為そのものじゃなくてな、そういうことをサクみたいな美人がすることに萌えというかときめきを感じるんだろ。不細工×デブとかじゃだめってことだろ。※ただしイケメンに限る ってやつだろ。俺みたいな奴には縁がないってことさ」
「ということは、つまりこれの読者には貴方の受けより俺の受けの方が需要があると……ふむ、一度試してみてもいいかもしれませんね」
「なんでマジで真剣な顔をしてるんですか、しかもなんで俺を見てるんですかサクさん!?いいよいらないよ!第一俺はバイですらないから俺を巻き込むのやめてえええええ!」
「俺は貴方も一部の人間には需要がありそうな気もしますがね。俺は貴方のことを貴方が言うほど縁がないとは思いませんが……」
「だからもうその話やめない!?なんでそんなに食いつくの!?つか友人をネタにするなよ、お前もうじゃれあう三次元男子を見て萌える女と変わらねえよ!」
彼が本格的に青ざめてきたところで、話題を変えるとしましょう。
彼をからかうのは実に面白いのですが、今日は別に彼にしたい話があったのですよ。
「そうですか?貴方は、どうにも変人に好かれやすいようですし、ありえると思いますよ」
「……おい、話の飛びっぷりが半端ないぞ。……誰のことだ?お前とか?」
「そうですね」
「えっと、いやあっさりうなずかれても反応に困るんだけどさ」
彼は頭をかき、困ったように笑いました。
「本当のことですから。俺は変人ですよ。それを俺はよく分かっているからここにいてこんな暮らしをしているのです。俺は自分が異質なことに気づいていながら、異質でない空間に無理やり介入しようとする類の人間が大嫌いなのでね」
「別にいいじゃねえか。ようはまともじゃないのにまともなふりをしてるってことだろう?協調性あるってことじゃん。何が嫌いなんだよ」
「異質は異質であるべきなのです。向こう側から望んで侵入してくるならともかく、自分から意図的に普通に溶け込もうなど愚かな行為です」
ましてや―――自分の『異常性』を『長所』と捉え、普通の人間を見下し憐れむような存在は人と思いたくもありません。
何故かって?『異常』は『異常』で、それ以外の何者でもないからですよ。異常者には異常者なりの暮らし方、死に方というものがあるんです。
そして同時に異常とは『以下』です。神も天使も超能力者も未来人も宇宙人も天才も全て、普通の人間になりえない劣った存在なのです。
それを誇るなどおこがましいにも程がある。
黒が白に少しでも交われば、白はあっという間に黒に染まってしまいます。この場合、俺たちは黒で一般の人間は白ですね。そうなれば、もうどれだけ他の色を混ぜようとも白は白には戻りません。分かりますね?
「---貴方に言うのもどうかと自分でもほんの一瞬だけ思いましたが、貴方も既知の事実だろうと思うので言わせていただくと、俺は都山留衣が嫌いです。大嫌いです。ええ、それはもう同じ空気を吸うのも、同じ地を踏むのも、同じ星に生活しているということすら不快なくらい嫌いですね。理由は先ほど言いましたが、彼女は女神などと自称しておきながら、平然と普通の人間としてふるまっている!矛盾しています。俺は神など牛の糞以下の存在、人間『への』冒涜以外の何物でもないと思っていますがね、仮に神というものが立派で人間が敬うべき存在だったとしてですよ、もし彼女が真の神ならば、彼女が人間としてふるまえるはずなどないのですよ」
なぜならその神は、異質の中の異質。エラーオブエラー。人間とは常に並走し続ける異常。人間よりはるかに劣った、低俗な生物。そんな存在が人間になれるはずがない。
それなのに彼女は自分が神であり完璧であるが故に『普通』を演じられると思っている!あまりの腹立たしさに絞め殺したい気分になりますね。
神であるからこそ普通でいられるはずがないのに、神であるからこそ普通であると信じられる、破綻しすぎて突っ込む気力すら湧きません。
俺はですね、人間が大好きなんですよ。
それも特殊な人間ではなく、この世界に生き平凡な生活を送る人間が―――です。もっとも異常な人間が嫌いだということではありません。俺は俺のことは好きですしね。都山留衣は憎いほど嫌いですが。
「……サクが留衣のことを嫌いなのはよく分かったけどさ、でもそれっておかしくない?だってサクは俺の友人なんだろ?」
「一応名目上はそうですね」
俺と貴方の関係を一言で簡潔に表すなら、そうでしょう。
本来貴方と俺は友人になれはしないのですが、在野がその言葉を好みますからね。
在野の前では『そう』呼ぶことにしています。
「つまり、サクは今超普通の人間である俺と友達ってことだろ?で、サクは異常な人間だとする。そしたらさ、サクは俺と、つまり普通と溶け込んでることにならないか?」
彼の顔には曇りなどなく、ただ単純に頭に思い浮かんだ疑問を口にしているだけに見えました。
計画性も、こちらを挑発しているようにも見えません。
ごくごく普通の―――きょとんとした、愛らしい様子でした。
……一つだけ、分かりません。
彼がこれを、無意識で行っているのか、それとも知った上で俺を試しているのか。
俺は天才の麗人ではありますが超能力者でも、ましてや神などというちっぽけで屑切れのような存在でもありませんから、彼の心の中を読むことは不可能です。
「貴方は十分に異常ですよ」
「うわ、傷つくなあそれ。俺そんなにうるさい?いや、皆そういうけどさあ、自覚も一応あるけどさあ、それでもそんな変人扱いされるほど変、俺って?」
「いえ、そこではなく」
教えてやろうとも思いましたがやめました。
異常性というものは、誰よりも自分が強く感じ取るものですし、俺が指摘するよりも彼が自分で気づいた方がいいでしょう。
彼はおそらく自分の異常を理解したところで都山留衣のようになることはないでしょうが……。
「……」
「な、なんで黙るの!?怖いんだけど!?俺なんかやばいこと言った!?」
「いえ、大したことではありません」
「教えてよ!そういう焦らしプレイは留衣なら嬉しいけどサクだと怖いだけだから!」
……さて、これは彼に対して忠告をしておくべきなのでしょうか?
彼はどちらかと言えば『異常』に属する人間ですから、俺自ら説明しておいても問題ないとは思うのですが……
しかし―――いや、そのような考えは野暮ですね。
作品名:Loveself プロローグ~天災編~ 作家名:ナナカワ