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Loveself プロローグ~姫編~

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うん、先輩とのおしゃべりは楽しいなあ。
これも先輩が私の王子様だからだよね。
先輩が楽しそうだとヒメもとっても楽しいよ。王子様の幸せはヒメの幸せ。
「そういや妃芽、俺の貸したゲームの進捗状況はどんぐらいよ?誰ルート?」
「まだ共通ルートなんですけどね、個人的には風子とことみが好きだったりするわけなんですが」
「妃芽は基本的におとなしそうな子が好きだよなあ、俺は断然杏で!あ、でも智代もいいな。俺はむしろ朋也より春原になりたいっ、蹴り飛ばされたいっ……!」
「先輩マゾですもんね」
「マゾ言うな、気が強い美少女が好きなだけだ。ツン:デレ=9.5:0.5くらいの。なかなかいないけどな。あと個人的には巨乳が好ましい。貧乳はステータスかもしれないが俺はロリコンじゃないんで。巨乳のお姉さまに悪い子ね……って頭ぐりぐりされたい」
「それを世間一般ではマゾって言うと思いますよ」
「えー、そこまでかあ?そんなこと言ったらツンデレ好きなんて全員マゾじゃ―――」

「……あの、少し、いいかしら?」
その時。
留衣さんが―――笑顔でヒメと在野先輩の会話を遮った。
笑顔―――いやいやいや、あれは笑顔じゃないよ。もっとおぞましい―――笑顔の型だけくりぬいた何かだったよ。
留衣さんも悔しいなら、アニメとかゲームとか嗜めばいいのにねー。

「ん、何だ、留衣?」
留衣さんの言葉にそう尋ねた在野先輩は特別不愉快そうでもなかったし、特別申し訳なさそうでもなかった。
多分留衣さんの機嫌が悪いことに気づいてないんだろう。
まあ、在野先輩って女心とか分からなそうだよね。平然と恋人に「太ったか?」とか聞きそうなタイプだよね。うんうん。
ヒメ的に言うならそういう鈍いとこも結構好きなんだけどね。留衣さんって度量ないよねー。王子様は別に、かっこいいだけの存在じゃないんだよ?
ヒメはそういう駄目なところも愛してあげられるお姫様だもん。

「……あの、ごめんね、遠坂さん。今日はあまり時間がなくて―――もうそろそろ行かないといけないの」
「え、留衣そんなこと全く言って……痛っ!」
先輩は本当にきょとんとした顔でそう言い、突然何らかの痛みを感じたらしく顔をしかめる。
ヒメからは様子は見えなかったけど、だいたい見当はつく。
まあ、多分留衣先輩がヒメに嫉妬して、ヒメと先輩の仲を引き裂こうってことだよね。
どうせ時間がないなんて嘘だよねー。
別にそういうことされても、ヒメは怒らないよ?
だってヒメは世界一のお姫様だもん、ちょっと人より綺麗ってだけの留衣さんに怒っても意味ないし。ヒメは別に王子様が他の女を侍らせても気にしないんだけどなあ。私が一番であればそれでいいよ。えーゆー色を好むってゆーしね。
でも、さすがに留衣さんに言われてはいそうですっていうこと聞くのは嫌だなあ。
でもここで逆らうと、先輩が留衣さんにいじめられちゃうよね。仕方ないか。
王子様の幸せはヒメの幸せ、だもんね。

「……わ、分かったよ……なんかあるんだよな?じゃあ仕方ない」
先輩も先輩で留衣さんの言葉(どうせ嘘なのに)素直に聞かなくてもいいんだけどなあ。
そこが先輩のいいところと言えばいいところだけど。
「えー、もうお別れしなくちゃいけないんですか?」
わざとらしくむくれてみる。でも、この気持ちは本当だよ?いられるならずっと王子様と一緒にいたいもん。
「本当にごめんな、妃芽。ルートの話はまた今度じっくりと」
「はい、……わかりましたあ」
さすがに在野先輩に言われたら食い下がれない。王子様を困らせることになっちゃうもん。
まったく、留衣さんは酷い人だなあ。
私と王子様の仲を引き裂こうだなんて!
もし在野先輩が私にとっての『一番の王子様だったら』どう責任とってくれるんだろう?
……あ、そっか、でもロミオとジュリエットしかり、織姫と彦星しかり、本当に運命の人とはなかなか出会えないものなのかな。そう考えるとロマンチックかも。
なら、これも私がお姫様である試練と―――考えるしか、ないのかなあ。
うう、悲しいなあ。プリンセスも楽じゃないよね。
「じゃあ、また学校でお話ししてくださいね」
「おう、もちろん!」
先輩はにこやかにそう答え、留衣さんについて公園から立ち去って行った。
一人残されるヒメ。
「……むう」
うん……在野先輩のために納得したかったけど、やっぱりちょっと嫌な感じ。
留衣さん酷いよ。酷すぎだよ。いじわるだよ。もう、さいてー。
「……あーあ……」
やっぱり引き止めた方がよかったかなあ。在野先輩なら無理やり追い払ったりしないよね。
でもなあ、留衣さんと一緒っていうのもなー……嫌だなあ、どうせヒメより下だけど、女の子と一緒でも全然嬉しくないし。
なんかがっくりしちゃった。今日は早く家に帰ろう。
あ、でもその前にいつものアクセサリーショップにでも寄っていこうかな。ヒメ、かわいい宝石とかネックレスとか大好きだし。

そこまで考えたところで、ヒメの携帯電話が鳴った。
着信メロディは、恋する女の子の歌。
在野先輩が言うには動画サイトですごく有名な、ボーカなんとかっていう音楽ソフトで作られた曲らしい。チェックしたいんだけど、ヒメネット苦手なんだよね。今度在野先輩に聞いておくよ。
この曲をヒメが知っているのは、たまたま音楽ショップで聞いて、歌詞にとても共感できて可愛いと思ったからだったり。ヒメ本当に恋する乙女。

誰からの電話だろう。そう思って表示を見る。
「……あ」
よく知った名前。
間違いない、見間違いじゃない。私の『王子様』からだ!

「あ、『悠一先輩』、おはようございます」
そしてすぐに、『王子様』からの電話に出る。
向こうからヒメに電話をかけてきてくれるなんて!やっぱりヒメって愛されてる!美少女でよかった!
「……あ、はい……暇、ですけど……」
こ、これってもしかして……。
デートの約束?
「……え、はい、はい、分かりました!『私』、嬉しいです……えへへ。……じゃ、じゃあ明日!」
ヒメは電話を切る。本当はもっとお話ししていたいけど、あんまり長話すると向こうの携帯料金が大変だし―――それに。
週末会えるならその時にいっぱい話せるよね!
本当に嬉しい!デートに誘われるなんて……!
電話がかかってきた時点でそんな気はしてたけど、やっぱり直接言われるとドキドキしちゃうよお……わくわくが止まらないよう……。
今度は今日以上に可愛い格好していかないと。
悠一先輩は確か爽やか系が好きだって言ってたから……これじゃちょっと女の子らしすぎるよね。水色のロングスカートを下ろそうかな。上ももうちょっとカジュアルな感じにして……髪は上でまとめてポニーテールにしよう。
うん、これできっと、『王子様』の理想の『お姫様』だよね。

留衣さんは酷いことしたけど―――王子様から誘われたことで全てチャラになっちゃった。
ありがとう王子様!みんなだあいすき!
在野先輩も、悠一先輩も、浩輔君も明君も智宏先輩も徹君もみんなみんなみんなみいんな、大好きだよ!
私は鼻歌を歌いながら、公園を後にする。
ああ、―――週末が楽しみだなあ!





……え、何でそんな変な顔するの?
ヒメは在野先輩のことが好きなわけじゃないの、って?