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看護師の不思議な体験談 其の十

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 手続き等も終わり、6時30分に葬儀社の迎えが来た。ストレッチャーに乗せ丁寧に移送する。
 裏口のエレベーターを操作し、『専用』の文字を点灯させる。他の階のスタッフが操作できないようにするためだ。
 1階裏口に真っ黒の葬儀車が停まっているのが見えた。扉を開けると、雪が降りそうなくらい冷たい空気。お見送りのために医師たちとともに一列に並ぶ。
 娘さんが頭を下げ、私たちも一礼する。
 その時、目が合った。…そう、あの黒猫と。
 黒猫は、私たちから少し距離をとった場所から車のほうへ視線を送っている。
(もしかして…)
 車のクラクションが響く。再度深くお辞儀をし、車が見えなくなる頃まで頭を下げ、ご冥福を祈った。
 顔を上げると、隣にいた医師たちは外来勤務の準備のため、院内へと入っていき、同僚も手のひらに息を吐きながら歩き始めた。
 振り返ってみたが、あの黒猫は姿を消していた。
(あの黒猫は、分かってたのかな…)

 一度病棟へ戻り、残務にとりかかる。Sさんの部屋へ入るが、空っぽになった空間が広がっている。こんなに広かったのか、と感じながらシーツを片付けた。