看護師の不思議な体験談 其の十
夜勤勤務を終え、白衣を脱いだ瞬間に看護師スイッチを切る。ノロノロとダウンジャケットを羽織り、ポケットに手を突っ込みながら駐輪場へ向かう。
まぶしい朝日の中、自分のバイクを見つけ近づくと、見慣れない物体がある。
(うん…?)
目を細めてよく見ると、黒いバイクのシートの上で黒猫が丸まって寝ている。
(真っ黒な毛玉みたい)
鍵をさしてエンジンをかけても、黒猫はびくともしない。
「ちょっと、どいてくんないかね」
背中をつつくとようやく、『どっこいしょ』っていう感じでバイクから飛び降りた。
「来てくれてありがとね、Sさんのお見送り」
私がそう言うと、黒猫はこちらを一瞬見たが何も言わずに別のバイクのシートに飛び乗り、寒さをしのいでいた。
「相変わらず、無愛想」
そう言いつつも、心がジンと暖かくなった。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十 作家名:柊 恵二