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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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「しかし、すごい偶然だよな。お前があン時その石買ってなかったら、俺今頃瓦礫の下だからな」
「あぁ・・・まぁ、無くても大丈夫だったけどな」
「は?」
「その日記」

「裏表紙の中見てみろ」と言われて日記の裏表紙を開く。
と、そこに違和感を感じた。なにかが入っているのか、一部分に膨れた場所があったのだ。
試しに触ってみると、かたい感触がした。
鬨に短いナイフを差し出されて、それを受け取り、そこを慎重に切る。

「あ・・・」
「な?」

中から出て来たのは、鬨が持っていたのより一回りほど大きい「魔石」だった。
しかし、形は鬨の物とそっくりだ。

「これ・・・」
「あんたの親父は、ちゃんと石を見つけてた。でも、肝心の魔力が無かったんだ。だから、他の誰かに託すことにした。・・・俺も、最後までちゃんと見てなかったから最初は気付かなかったけど、後で気づいた」
「・・・・そっか」

ヴェクサはその石をひとしきり眺めた後、唐突に鬨の手を取ってその上にその石を握らせた。

「これ、やるよ。鬨が持っててくれ」
「は?」
「ほら、お前の、俺のせいで無くなっただろ」

正確には、ヴェクサの中で心臓として機能しているが。

「・・・・・わかった」

なにか言いたそうにしていた鬨だが、ヴェクサの目をみて反対しても押し切られることを悟り、大人しく頷いた。

「・・・・・さて」

そう言って立ち上がる鬨を、ヴェクサは不思議そうな目で見守る。

「そろそろ俺は行く」
「え・・・・」

突然のその言葉に驚いて、声が出なかった。

「言っただろ。この街に滞在するのは3日だって。・・・それに、元々はノヴェムに向かってたんだ」

ノヴェムは隣の町だ。ここからは、その街にある大きな教会の屋根が少し見える程度の距離しか離れていない。

「・・・・・もう、行くのか・・・荷物は?」
「またそろえるさ。丁度買い換えようと思ってたしな。世話になった。・・・あんたは・・・どうするんだ?」
「どう・・・」

おそらく、もう街には戻れない。
あの街の地下にあった地下が消えたことで、あの街からヴェクサがいた記憶は無くなっている。
それはもう既に、ヴェクサがあの街の住人で無いことを表していた。

ならば、どうすればいいのか。

迷子の子供はこんな気持ちなのかもしれない。
自分の家への帰り方が解らず、ただ不安で、不安定だ。

「俺は、もうあの街へは帰れない」
「なら・・・」


「それなら、俺と一緒に来るか?」


その言葉に、勢いよく顔を上げて鬨を見た。
その顔は、清々しそうに微笑んでいるように見えた。

「いやならそれでもいい。・・・・どうする?」
「・・・・一緒に、行ってもいいのか」
「あぁ」

鬨は自分から手を差し出すと、「迷惑は極力掛けない様にしてくれ」と肩を竦めて言った。

「はは・・・気をつけるさ」

ヴェクサは笑って、その手を取った。