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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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Episode.21 朝日



『俺に考えがある』

そう言って道案内をヴェクサに託した鬨は、さっさとヴェクサの後ろについてしまった。
揺れの中走るのはなかなか大変だが、コツを掴めばなんとか走ることができた。
後ろから聞こえてくる轟音は、おそらく研究室が崩れた音だろう。

「こんなに揺れて、地下も崩れて、街は大丈夫なのか」
「・・・ン、あぁ。それは大丈夫だぜ。昔のやつらが計算して、崩れても上の街が残るようにしてあるらしいからな。崩れる順番も決まってるンだ」

順番は、まず地下への入り口・・・こっちからいえば出口が一番にふさがる。次に研究室、他の細かい通路、という順番だ。どういった設計でそうなっているのかは知らない。

「そうか」

そう言って、鬨はまた黙った。

ここはまだ、位置的に街の中だ。
だけど、もう少しで街を出てしまう。わかるのだ。
その証拠に、街の外へ近づくにつれて体が痛む。骨がきしむのがわかる。
このままいけば、自分がスプラッタなことになるのは確実だった。

「・・・・・着いたぜ。ここが街との境界線だ」

ヴェクサが足を止めると、鬨も足をとめた。
いったいどうするつもりなのかと鬨を見ていると、何やら道具入れの中を漁っていた。

そして、鬨は一つの白い箱を取り出す。

「それは・・・」

見間違えるはずもない。朝市で鬨が買っていたあの箱だ。

「なンに使うンだ?」
「俺も途中で思い出した。・・・いいから、後ろ向け」
「?」

不思議に思いながらも後ろを向く。背中を鬨に見せて、街の外を見る格好でそこに立った。

「いいか、絶対にこっちを振り返るな」
「お、おぉ」

ヴェクサが頷いたのを見届けた鬨は、石を取り出して日記で見た通りの言葉を口にした。

「      」

その言葉はやはり言葉と言う形にはならず、ただ空気に溶けるようにして消えた。
もちろん、音無き言葉はヴェクサには聞こえていない。
しかし、その言葉が紡がれた瞬間、石がぼや、と光る。

これで準備は完了だ。

鬨はすぅ、と息を多く吸って言葉にならぬ言葉を次々に紡ぎだしていく。

「                  」

その言葉は、すべて石の中に吸い込まれるように溶けて消える。
石はその言葉を吸いこんだだけ光を強くしていく。

パキンッ

そんな音がして、石がその場に「固定」された。
位置はヴェクサのちょうど心臓の位置。

依然と石は光を放っている。
そして、鬨から紡がれる言葉は続く。

「        」

その言葉で足元に青く光る魔方陣が出現した。
その魔方陣からはかすかな風が起こっている。

「            」

石はその言葉で一気に光を増した。
その瞬間、鬨の掌がその石を「押しだした」。


どんっ、という衝撃と共に、ヴェクサは前に倒れそうになる。
しかも揺れの中でバランスを取りながら立っていただけに、かなり勢いよく。

「なにす・・・っ!おわぁ!!」

しかし、ヴェクサは倒れることなくすぐに鬨に起こされた。
そして、何も言わずに走る鬨に引っ張られ、ただ走った。