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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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ヴェクサの屋敷には、20人ほどが集まっていた。
おそらく、行方不明になった者の血縁者だろう。皆同様に不安げな顔をしていた。
そんな住民たちに、指揮を出すヴェクサは先ほどから忙しそうに駆けまわっている。

「今のところ何人だ?」
「20人を超えたよ」

「そっちは北側を頼む」
「あいよ」

と、鬨はそんなヴェクサの様子を壁の花と化しながら見ていた。
ヴェクサからは呼ぶまでじっとしていろと言われているので、仕方がない。

「悪い、待ったか?」
「いや」

そう声をかけられたのは、待ち始めて30分といったかいかないかというところだった。
壁から背中を浮かせ、姿勢を戻す。
いつも通り冷静に返したが、内心では少し驚いていた。なにしろ、いつも何処か笑顔でいる男だ。ヴェクサと出会ってまだ2日。知らない表情があって当然のことだが、

(長・・・か)

今までふざけたような姿しか見ていないからか、今のヴェクサは別人のように思える。
しかし、ヴェクサとは気兼ねなくなんでも話せるような仲ではないし、鬨もそこまでヴェクサに気を許した覚えはない。
たとえこの街で何かがあろうと、明日には鬨はこの街に居ない。
鬨はここの住人ではないのだ。この街の事情に深く踏み行ってしまうと、それはルールに反する行為となる。
だから、

(――何があろうと、俺には関係ない)

鬨は、自分に言い聞かせるように胸の内でそうつぶやいた。

(たとえ・・・)

たとえ、この騒動でヴェクサが死のうとも。

その行為を、鬨が起こさなければ、それは鬨にはまったく関係のない事なのだ。
当たり前だ。それは鬨が起こした事ではなく、他人が起こした事件なのだから。
そして、そのことを悲しむほどの感情を、鬨はヴェクサに対して持っていなかった。
情が湧かないと言えば、嘘になる。だから、少しの協力はする。
しかし、それまでだった。

「?なンだ、何か俺の顔についてるか?」
「いや」

ヴェクサからなるべく自然に目を逸らし、話題を変える。

「で、俺は何をすればいい?」
「あぁ、それなンだがな。俺と一緒に地下へ来てくれ」
「・・・・・は?地下?」

まさか、またあの仕掛けたっぷり(ヴェクサ談)の地下に潜れと言うのか。
いや、それはいい。罠があることはもう解っているのだから、気をつけていればそうそう引っかかることはないだろう。
しかし、あそこには・・・・

(あれが・・・・)

昨日の光景を思い出してしまい、腕に鳥肌がたった。
もう二度と、あの光景だけは見たくない。
それに、この街の地下は嫌だ。なぜか、そう思う。理由としてはもちろん先に言った事が大きいが、それとは別に、ただ「嫌な予感がする」というのが漠然とあるのもその理由だろう。

前言撤回だ。協力したくなくなってきた。
しかし、自分で言いだした手前、「行きたくない」とは言いにくい。
それに、ヴェクサの申し訳なさそうな顔を見るところ、本当に人手が足りないのだろう。

「・・・・・〜っ、わかった。行こう」

溜息を吐きたい気分になりながらも、了承の意を出した。

「悪いな」
「人手が足りないんだろう。構わない」
「サンキュ」

にっ、と笑った顔は、見なれたヴェクサの顔だった。