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Episode.16　異変

「っかしいな・・・・」
「あぁ」

流石に、おかしいとは思い始めていた。
いつまでたっても店の店主が現われないのだ。
この店に来た時、店は開いていて、しかもきちんと開店を知らせる看板まできちんと扉に掛けられていた。そして、焼き立てのパンもカウンターに並べられていた。
いくら放任主義の店主でも、ここまでは自分の店を置いておきはしないだろう。

「・・・・・・・」
「・・・探しに行った方がいいか？」
「入れ違いになったらそれこそ探し損だ。それに、店に何かあったらどうする」

自分達が離れている間に泥棒に入られたなど、後味が悪すぎる。

「じゃあ、悪いけど鬨がここに居てくれ。俺はひとっ走り街を探してくる」
「お前一人じゃこの街をすべては無理だ。せめて誰かに手伝ってもらえ」
「・・・ってもなぁ・・・いったい誰に・・・」

その時だった。
ばたん！という音を立てて、あわただしく店の扉が開いた。
二人は思わずそちらを振り向き、入って来た人物を見る。

「あんたは・・・」
「こ、ここに居たか・・・」

息を切らして入って来たのは、見たことの無い男だった。
おそらく、この町の住民だろう。
男はなんとか息を整えると、いきなり「大変だ！」と叫ぶ。

「どうした？」

男の様子に何かを感じたヴェクサが真面目な顔で男に聞く。

「街のやつらが大量に消えたんだ！何の前触れもなく、突然に！」
「！？」

その言葉に、鬨とヴェクサが互いの顔を見合わせる。
ヴェクサが男の方に歩み寄りながら聞いた。

「ここのおやじさんも朝からいない。・・・どういうことだ？」
「俺にもさっぱりだ！とにかく、皆あんたを探してる。急いで来てくれ！」
「わかった」
「俺はここに居る。行っても邪魔なだけだろ？」
「いや、鬨も来てくれ。今一人でいるのは危険だ」

ヴェクサにそう言われ、鬨は少し考えた後、ふ、と軽くなった膝に思わず下を向いた。
忘れていたが、今までずっと膝の上に居たのだった。
見ると、金色の瞳が此方を見ている。
それを見て、ようやく「わかった」と言って立ち上がり、早足に店を出ていく二人を追う。

―――どうも、落ち着かない。嫌な予感がする。

予感が外れであることを願いながら、鬨は店を出た。