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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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「で、「うまい」パンは買えたのか?」
「ン?お、あぁ。朝飯がてらここで食うか?」

そう言って、ヴェクサは買ったばかりのパンを机に出し始める。
というか、包装がしてあるという事はカウンターの中にまで入ったのか・・・。

「これが一番おすすめのメロンパンだ。こっちのサンドウィッチもうまい。このチーズが挟まってんのなんて、一回食べたらマジでやみつきになるぜ」

ごそごそと机にパンを出して並べながら説明(?)をしているヴェクサの顔は、これ以上ないほど嬉しそうだ。よっぽどここのパンがうまいのだろう。
まぁ、この男は大抵の物をうまいと言いそうだけれど。

「で、どれ食いてぇ?」
「俺はなんでもいい。それに、それはお前が買ったものだろ」
「気にすンな、俺のおごりだ!」

にかっ、と八重歯を見せて笑うヴェクサを、まぶしそうに目をほめてみた後、鬨は短く小さな溜息をついて言った。

「じゃあ、おすすめのメロンパンをもらおうか」
「さすが、お目が高い」

今度はにやり、といった感じの笑みを浮かべてメロンパンを投げてよこしてきた。
よくそれだけ表情が変えられるものだ。
と、鬨は一種の感心を覚えながら、パンの入っている袋を開けた。
そして、大きめなメロンパンにかぶりつく。

「!」

思わず、予想外のおいしさに少し目を見開いた。
外側のクッキー生地はサクサクしているが、その中身は驚くほどふわふわと柔らかい。
口当たりもよく、小食な鬨でさえ食が進む。
それに、このほのかな甘さが何とも言えない味をかもしだしていた。

実は、鬨は無類の甘党だ。
現にこの街に来て最初に口に入れたのは鬨が寝泊まりしている宿の甘味である。
別に、だからと言って辛いものが嫌いなわけではないし、好き嫌いがあるわけではない。
だが、どちらかと言われれば迷うことなく甘い方を選ぶぐらいには好きだった。

「――・・・うまい」
「!・・・だろ?」

鬨が珍しく――というか初めて――好意の見える言葉を言った事に驚いた顔をしたヴェクサだが、次の瞬間には見慣れた笑顔が浮かんでいた。


―――そうして、ヴェクサと遅い朝飯を食べているうちに、日は真南へ傾いていた。