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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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Episode.10 腕前



「おばちゃん、いねぇの!?」
「あぁ、悪いね。今日は用事で居ないよ」

鬨の泊った宿屋は、どうやらそこそこ評判のいい定食屋でもあったらしい。
ヴェクサが残念そうにしている横で、先客であろう男達がブツブツと「居ないんなら仕方ねぇな」とか「ほかんとこ行くか」と言って店を出て行った。

「そのかわり、厨房を貸し出してあるよ」
「俺料理なンて作れねぇぞ」

真剣な顔でカウンターに肘をついて唸っている男は、よほど腹が減っているのだろう。
でなければ、ただのバカだ。
他で食べるという選択肢は見つけられないようだった。

「・・・・俺が作る」
「・・・え?なに、なンて言った?」
「俺が作るって言った。厨房かしてくれんだよな?」
「え、えぇ・・・お好きに使ってください」
「・・・大丈夫か?」

不安げにしているヴェクサと、こちらも不安そうな宿主は一度顔を見合わせた後、背に回していた麻衣色のマントをはぎ取った鬨の方を見る。そうすると、今までほとんど隠れていた二の腕がさらされて、意外と筋肉がしっかりと付いていたことを知らされた。
ノースリーブなのに首元はしっかりとガードされたその服に、国の文化の違いを感じる。
ノースリーブなのは、無駄を省くためだろう。服の袖は、意外と邪魔なものだったりするから。
しかし、北国生まれだと言った鬨のその服装は、寒くないのかと思わせられる。
が、なにも故郷で買ったものでもないだろう、と勝手に結論付けて、頭を本題へと戻した。

「本っ当―に、大丈夫か?」
「なんだ、そんなに食いたくないなら食わなくてもいいぞ」
「いや、出来によって変わるな、それは」

そんなやり取りをした後、鬨はさっさと調理場へ入ってしまった。
まぁ、すると言ったからにはそれなりの知識があるのだろうと、不安を取り除くように頭を振ったヴェクサは、気を取り直し、立っていたままだったことに気付いてカウンターに腰を下ろした。

「大丈夫なのかい?」
「まぁ、あいつがそう言ってンだから大丈夫なンだろ・・・たぶん」

最後の言葉は聞こえていなかったらしい。宿主は「あんたがそう言うんなら・・・」と、店の奥へ消えた。