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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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30分後――




ヴェクサが3本目の煙草に火をつけようとした時、待ち人は厨房から出てきた。

「遅かったな」
「プロじゃないんだ、そんなに早く作れるかよ」

それもそうだ、と考え、皿を持って近づいてくる鬨の方を向く。

「ほら、こんなんでよかったか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

目の前に置かれたのはオムライス。・・・・なのだが、

「お前、本当に素人?」

心配も何も、ヴェクサの予想を鬨は遥か上を行っていた。
とろっ、としたように見えるが、張りのあるふんわりしたたまごに、作ったのだろうか、普通のケチャップではない色合いのソースが丁度いい具合に掛けられている。
言うならば繊細とも言えるオムライスだが、そのボリュームを見れば豪快さも伝わってくる。
なにより、さっきから漂っているこの匂い。
空いていた腹が、はやくはやくと催促するように鳴った。
ごくり、と喉を唾が通る音がする。

「さっさと食えよ。冷めるぞ」
「あ、あぁ・・・」

恐る恐るという風に真ん中にスプーンをつき入れ、半分に割る。
すると、これでもかと掛けられた卵とソースがその間に入り、ご飯に絡まっていく。
間にはチーズが入っていたらしく、溶けたチーズがとろりと伸びた。
これまでに、ここまでおいしそうなオムライスを見たことがあっただろうか。
否、無い。
と、感動しながらも一口大に切り取
られたオムライスを口に入れる。

「うまっ!!」
「そりゃどうも」
「お前天才だよ!もう料理人になれ!」
「いや、それは本職のやつらに失礼だろ・・・」

そんなことはねぇ!と叫びたかったが、今はオムライスをほおばるのに必死だった。
そんな様子を横で見ている鬨に、疑問を覚える。

「お前は食わねぇのか?」
「いや、あるんだがお前の食いっぷり見てると腹がいっぱいになった」
「なンだそりゃぁ」

脱力しながらも食べるのをやめないヴェクサを、鬨は呆れ半分、微笑ましさ半分に見ていた。
が、いい加減体の疲れを感じた鬨は、自分の荷物を持って椅子から立ち上がる。

「それ食ったら部屋に来てくれ。俺は疲れた。足りなかったら俺のを食え」
「おう」

ボリュームたっぷりのオムライスをすでに半分ほど腹の中に収めているヴェクサは、そこで初めてぐったりとした様子の鬨に気がついた。
声をかけようかとも思ったが、さっさと階段を上がってしまった鬨に、タイミングを逃したヴェクサであった。