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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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その様子を思わず見送っていたヴェクサは、「あんたはそれ、どうするんだ?」という言葉に、自分が置いて行かれそうだという事に気付き、同時に手の中に持ったままだった小さな箱のことを思い出した。
あまりに自然に鬨が自分をおいて行くものだから、ぼーっとしてしまっていたようだ。

「あぁ、そうだな。いくらだ?」
「それはいらねぇもんだから、もってってくれて構わんよ」
「いらないもの?」
「あぁ、なんでもいわくつきの代物らしい」
「いわくつきって・・・どういう」
「よくわしも知らん。だが、わしは持っていても平気だった」
「・・・・・・・」
「おい、おいて行くぞ」

いつの間にか少し戻って来たのだろう。鬨が隣のテントを少し過ぎたぐらいの位置でこっちを待っていた。

「ちょっと待てって!・・・・・まあいいか。もらっとく」

そう言ってヴェクサは、鬨に追い付きながらその箱を自分の腰にある道具入れへ押し込んだ。

「すまンすまン」
「何してたんだ、お前は・・・」
「いや、ちょっとな」
「?まぁいいけど・・・」

まさか指輪を買っていたなんて言えるはずがない。しかもいわくつきというおまけが付いている代物だ。
ごまかすように笑っているヴェクサを、鬨が呆れた様子でこちらを向く。
そのアメジスト色の目は先ほどガラス細工を見ていた時と変わらず、輝きを持ったままだ。
その目に自分が写りこんでいるのを見るとどきりとする。いや、ナルシストではなく。
その瞳に映っているのだとすると、鬨はこちらをしっかりと見ているという事だろう。
人の目を見て話しなさいと、昔誰かに言われた気がするが、時にそれは仇にもなるのだと、ヴェクサはこの瞬間に思い知っていた。
地下に居る時などはよかった。人工的な明かりの下では、いくら綺麗なモノでも本来の輝きは見てとれない。
しかし、太陽の下では別だ。
本来の輝きが見えてしまう分、ヴェクサにはその輝きがまぶしかった。
少し目の色が反射したように、髪の色とは違うように見える長い睫毛が蝶の様に瞬きをしている。鬨も性格だけ見ればれっきとした男なのだが、細身の身体や、その顔だちが中世的な印象を与えているのは間違いない。

「?なんだ、何か俺の顔についてるか」

考え事をしているうちに、いつの間にか鬨の顔を見つめていたらしいと気付いて、はっとなる。

「い、いや。なンでもない」

明らかにごまかしでそう言うヴェクサを、鬨は足を止めて正面から見る。
そのいきなりの行動と、じっと見つめられるという事にたじたじになってしまったヴェクサを、何を思ってそんな行動に出たのか。それは本人以外には解らなかったが、鬨は少しの間思案していたようだった。
結局、鬨は黙ったまま、ヴェクサに何も話すことなく再び歩き出した。
意味が解らないヴェクサはしばらくその場に固まっていたが、また置いてけぼりにされそうになっていることを知って慌てて鬨を追いかけた。