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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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語り終わったヴェクサは、真剣に聞いていたらしい鬨の顔を見て、一息置いた。

「という話だ」
「・・・・確かに、子供に聞かせるような話じゃないな」

そういって肩の力を抜いた鬨は、ずるずるとただしていた姿勢を崩して背もたれにもたれかかった。

「俺は、この話に今回の「あれ」が関わっていると思ってる」
「・・・確かに、似てるな。人を喰って人間になろうとした少年と、人間になるために造られ、人を喰う「あれ」ら。つながりが無いとは言えない」
「お前もそう思うか?」

そう言って暗く沈むヴェクサに、今更ながらだが思い出したように

「そういえば、さっき「出来たばかり」の「あれ」はいいのか?」
「ン?あぁ、あそこに居るやつらは勝手にプログラムが「処理」してくれる。だから心配ねぇよ。まぁよっぽどのことが無いかぎりプログラムは止まんねぇしな」
「・・・・もし止まったら?」
「あそこに居るやつら、それとまだ発見されてない部屋に居るやつらも合わせて軽く数百匹の「あれ」が街の人間を襲うことになるな」

聞かなければよかった。
この街にはもう来れないな・・・などと考えて、ふと鬨は今の時間が気になった。

「なぁ、今って時間、何時ぐらいだ」
「なんだ?いきなり」
「いや、此処に居ると時間の感覚がどうもな・・・」
「・・・悪いが、ここに時計は持ちこめねぇんだ」

歯切れの悪い答えに、いぶかしげに鬨が聞き返す。

「なんで?」
「いや、それがわかんねぇンだけど、なぜか此処に時計を持ちこむと必ず壊れるンだよ」
「はぁ?変なとこだな」
「なにしろ失われた「技術」で造られた地下部屋だからな。何があってもおかしくは無いだろ・・・・ところで、ずっと引き延ばしにしてたんだが」

すっ、と真剣な顔になるヴェクサに、鬨も表情を硬くする。

「なんで「魔術」が使える?あれは特に「禁忌」とされた「技術」だ」
「・・・・話さないって、わけにもいかないか・・・・」
「あぁ、きっちりと話してもらう」

鬨は、溜息をついた後、ゆっくりと過去を語りだした。

「俺はな、元捨て子だったんだ」
「・・・・・・・・・・・・」

何の反応もせず、ただ静かに話を聞いているヴェクサに、構うことなく鬨は話を進めて行く。

「まぁ、俺にはその捨てられた記憶も、拾われた記憶もないし、捨て子っていうのも別に珍しくもなんともないことだろ。・・・物心ついた時、父から言われたことはそれだった。でも父は俺が邪魔だったわけじゃない。真実は早めに伝えておいた方がいいという父なりの判断だ。俺はそれでよかったと思ってるし、そのことに関して威厳は無い。・・・何より父は俺を本当の息子として育ててくれたし、愛してくれていた。俺にはそれで十分だった」

遠い過去を思い出すように、目を細めて言う鬨に、ヴェクサは眉をひそめたが、結局何も言わずに先ほどからの姿勢を保っていた。

「・・・なんで、魔術が使えるのか、だったな・・・」

鬨は、無意識にかその耳にしてある装飾品をそっと触ると、手を元に戻す。
その細かい装飾をされたイヤカフスが、光に反射してきらりと光る。イヤカフスは全体的に銀でできており、シンプルなデザインで、しかし大雑把にとは言えない精密さで宝石の様なものがステンドガラスのように付けられていた。それはすぐに鬨の髪の毛で隠れてしまったが、ヴェクサに強烈な印象を与えるには十分な時間だった。

「・・・俺には、昔の記憶が無い。」

その言葉に、ヴェクサは目を見開く。
鬨は、まるで他人のことを話しているような態度で、そんなヴェクサの反応を気にもしない。

「全部ないってわけじゃない。けど、ほとんどのことを思い出せない。俺の記憶がしっかりとしているのは15歳ごろ・・・旅を始めたころぐらいからだ。だから、正直俺にもなんでこんなものが使えるのか、はっきりとは解らない。解るのは俺には父と、血のつながってない兄がいたこと。そして、この力を使えるようにしたのは世界神(イラ・ノヴェム)だという事だけだ。・・・これが「禁忌」のはずの「魔術」が使える理由だな」

最後の言葉は溜息でもつきそうな顔で言った鬨に、ヴェクサはついに我慢できなくなった。

「ちょ、ちょ、ちょ!ちょっと待てよ、だから、なんで世界神(イラ・ノヴェム)がお前に魔術教えてんだよ!?というか、一体お前はなんでそんなことになってんだ?!」
「それが解れば苦労はしてないって。・・・だからなぜあいつが俺に魔術を教えたのかも、知らない」

静かともいえる仕草で、鬨が首を横に振る。

「・・・・・・・そうか」

少し考えたような仕草をした後、諦めたようにヴェクサが立ち上がる。

「納得はしたのか?」
「仕方ないだろ。お前が覚えてないんだから」
「まぁ、な」
「それよりほら、そろそろ帰ろうぜ。・・・・ここは普通の人間が長くいるような所じゃない」
「は?」

言うだけ言ってさっさと行こうとしているヴェクサの言葉に疑問を覚えるも、鬨もこの場所にあまり良くないものを感じ、なにも追及せずにヴェクサの後を追った。