無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~
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これは、人間になりたかったひとりの少年の物語。
一人の少年の、夢物語。
叶うことのなかった幻想の、お話。
その少年は、孤独でした。
その少年には、お母さんがいませんでした。
その少年には、お父さんがいませんでした。
その少年は、人間ではありませんでした。
その少年には、家族が、いなかったのです。
しかし
その少年には、仲間がいました。
少年を造ってくれた先生がいました。
少年は初め、たくさんの仲間たちに囲まれて暮らしていました。
少年は初め、孤独ではありませんでした。
街に行けば街の人たちが暖かい笑顔で迎えてくれました。
森に行けば動物たちが寄ってきて、一緒に遊んでくれました。
少年は、幸せなひびを過ごしていました。
しかし
ある日、大好きな先生のところに、大勢の人が訪ねてきました。
その人たちは、先生をころしてしまいました。
先生は、少年を守ってしにました。
少年は先生の腕の中でじっとしているしかありませんでした。
その大勢の人たちは村の人たちに少年たちが人間ではないことを教えてしまいました。
少年の仲間は、みんないなくなってしまいました。
少年は、一人になりました。
少年は、孤独になりました。
やがて、少年は思います。
「ぼくも人間になりたい」
少年は一生懸命でした。
一所懸命人を研究しました。
そのために、村の人の力を借りました。
しかし、研究を進めるうち、村の人はどんどん少なくなっていきました。
それが少年は嫌でした。
いつまでもみんなと一緒にいたい。
でも人間になるためには研究をしないといけない。
少年は一生懸命ほんをよんで、やがて見つけます。
それは一冊の本。
その本には、人間になる方法がたくさん書かれていました。
それは、大好きな先生のかいた本でした。
その中の一つに、とてもいいことがかいてありました。
「これなら、皆といつまでも一緒に居られる。ぼくも人間になれる」
少年は、さっそくそのじっけんを行う事にしました。
その実験に、人間は6人ひつようでした。
村には、5人しか人間が、残っていませんでした。
しかし、それに少年は気がつきませんでした。
少年は、このじっけんを行うごとに人間に近づいていきました。
一回目、右足が人間になりました。
二回目、左足が人間になりました。
三回目、右手が人間になりました。
四回目、左手が人間になりました。
五回目、人間の様な身体を持つことができました。
六回目、できませんでした。
もう村には人間はいません。
材料が足りないことに、やっと少年は気がつきました。
後一人、人間がいないと、「心」が手に入れられません。
少年は悩みました。
少年は腕を組んで悩みました。
少年は足を組んで悩みました。
少年は頭をうつ向かせて悩みました。
そこで、気がつきました。
「人間は、ここにいるじゃないか」
少年は、自分の腕と足と身体を見て、そう言いました。
少年は、6回目の実験を行いました。
しかし、6回目の実験は失敗してしまいます。
「あ、自分の心と頭は食べれないんだっけ」
手と足と身体を失った少年は、人間の様な頭脳で考えます。
「あーあ、だめだなぁ、ぼく・・・」
それが、少年の最後の言葉でした。
少年は、孤独でした。
でも、さびしくはありませんでした。
少年の中には、たくさんの人がいたからです。
少年はもう、一人ではありませんでした。
これは、人間になりたかったひとりの少年の物語。
一人の少年の、夢物語。
叶うことのなかった幻想の、お話。
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作品名:無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~ 作家名:渡鳥