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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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部屋を出て連れてこられたのは洗面所だった。その前に連れてこられると、「ここならいいから、吐いちまえ」と言われたが、正直言って吐きたくない。あの吐く瞬間に来る苦しさや喉をせり上がってくる胃の中のものの感覚が嫌いなのだ。

「あーもう、めんどくせぇな。出してすっきりしちまえよ」

促しても頑なに首を振る鬨に、しびれを切らしたヴェクサは予想外の行動にでた。

「ぐぅっ・・・??!!」

洗面台をのぞくようにしてその淵に手をついていた鬨の口に、指が入れられた。
しかも遠慮も何もなしに、ガッという音がしそうなほど勢いよく。
それは入れられる、というより突っ込まれている、という方が正しいかもしれない。そして、そんなことができるのはここにはヴェクサ一人しかいない。舌を押さえられ、収まりそうだった吐き気がせり上がってくる。それを我慢しようにも手にさえぎられ、口を閉じることができない鬨は、あえなく胃の中のものを吐き出してしまった。いつの間にか出されていた水に、それらはすぐに流されていってしまった。すぐに抜かれた指は水道で洗われて、視界から消えた。
まだ荒い息を繰り返す鬨に、ヴェクサが「すっきりしただろ?」と話しかけてくる。
それに対して鬨は、今なら視線だけで人が殺せそうな睨みを返しただけだった。
すぐに口の中を洗うと、勢いよく流れだす水の中に手を入れ、顔も洗う。横から差し出されたタオルを不機嫌丸出しで受取ると、大雑把に水気を拭いてタオルを返した。

「そう怒るなよ。我慢は体に良くないンだ」
「だからって指突っ込むことはないだろ!」
「お前がさっさと吐かないのが悪い」
「・・・・・・っ!・・・・・・悪かった」

何かを言い返そうとして言葉にならなかった鬨は、その言葉を飲み込んだ。
「悪かった」というのは、手の上に吐いてしまったことだ。それがわかったのか、ヴェクサは気にした風もなく、「いや?気にすンな」と言ってシニカルに笑った。

(それにしてもなんだ、この敗北感は・・・・)

先ほどの行為で何かを無くした気がする鬨は、こんなことなら素直に吐いておけばよかったと、意味のわからない敗北感を振り払いながら考えた。

※グロ終わり※