小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Lv1  (仮)

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

第一章 破壊


 そこは荒地だった。
 周りには瓦礫が転がり、焼かれた後のように黒くなっている。
…いや、実際、焼かれたのだろう。何か、火事があったあとのような。
 風に乗って微かに、鉄に似た、血の臭いがした。
 元はどこかの国だったのか、殆どが崩れた家のようなものや、そんな名残があった。
 これだけを見て、単純に考える。
(火事で国が滅びた後? …いや、火事で国が滅びたなんて話は聞いたことが―――)
 途中で、思考を中断させる。
 ものすごく大事なものが、自分には欠けている気がしたのだ。
 そして、欠けているものの正体が分かる。
 記憶だ。
自分がどうしてここにいるのか。
自分は何者なのか。
何も、分からない。
 記憶喪失だと思い、ふと、あることに気がついた。
 自分が誰なのかということはまったく分からないが、これが記憶喪失だと認識することができ、立って歩くことだってできる。
つまり、欠如しているのは記憶だけであって、知識はそのまま残っているのだ。
まあ、どこからが記憶で、どこからが知識なのかは曖昧だが。
 と、そこまでくだらないことを考え、また、真面目に頭を動かす。
 呆れたことに、自分がどこで生まれたのかも知らない。
どれだけ考えても分からないということは、知識ではなく、記憶に入っていた、ということである。
もしかしたら、自分の立っているこの地こそ、自分の生まれた故郷ではないのか。
それとも、自分はただここを通っただけなのか。
結局、何も分からない。
 次に、なぜ自分が記憶を失っているのかを考える。
 だが、これは記憶がなければ知りようのないことだった。
 諦めて、今度はもう、適当に考えるだけにした。
 もしも、この地のこの国が自分の故郷だとして、なぜ滅んでいるのか?
焼け跡がある所を見る限り、火災があったことは間違いない。
だが、それだけで滅びるはずがない。
鼻孔を焼くような、生臭い血の臭いがするところ、戦争の類があったのかもしれない。
辺りをもう一度よく見回してみれば、いままで気がつかなかった弾丸や銃、それに刃がボロボロの使えない剣なども落ちていた。
もしも戦争があったというのなら、自分が記憶喪失なのにも筋が通る。
 そこまで考えて、嫌気がさした。
何を考えているんだ。故郷が戦争で滅んだなど、縁起の悪いことを。
 もっと、前向きに考えようじゃないか。
 たとえば、ここには知り合いが生き残っていて―――
「…ヒ…カ、ル……、ヒカルなのか……!?」
「……は?」
(!? うわ、マジでいやがった!?)
 声がしたほうを見ると、そこには燃えるような赤髪の男が、瓦礫の下敷きになってぐったりとしていた。
 俺を見る緑の瞳は安堵感に溢れていて、希望を見つけたかのように輝いていた。
「よかった……、お前がいれば…あの男に、復讐が、で…き…」
 そこまで言って、唐突にその目を閉じると、ピクリとも動かなくなる。
 これはヤバイ、そう思った俺は何も考えず、ただ目の前にいる何の関わりもないような(実際はかなり親しい仲なのだろう)奴を、助けようと動いた。
 だから、注意すればわかるような危険に気がつくことができなかった。
「………ッ!?」
 銃声がして、刹那、わき腹にとてつもない痛みが走った。
 あまりの痛さと驚きに、奴のところへいこうとした勢いのまま地面を転がる。
 ギュッと閉じたまぶたをこじ開けて傷口を見ると、幸い、銃弾が内部に入ることはなく、皮膚が深くえぐれた程度だった。
だが、痛いものは痛い。出血しているところを見てしまうと、更に痛みが増した。
 クソッと呻き、横に転がってボロボロになった建物の影に身を潜める。
 少しだけ顔を覗かせて見ると、幸い、転がったところは見られておらず、次の弾をつめながらこちらをさがしていた。
 だが、安心はできない。
ここらで隠れることができそうなのは、さっきの赤髪がいるところの瓦礫の山と、ここだけである。
見つかるのも時間の問題だろう。
 壁にもたれ掛かる形で体勢を整え、改めて傷口を確認する。
 ゆっくり見てみると傷口は思ったよりもひどく、多分、痕がのこるか、最悪の場合は腐ってしまうだろう。
 転がった際にどこかで切ってしまったのか、手の甲にも傷があるものの、もう治りかけていて、気にするものでもなかった。
(チィッ……、記憶を失った次に、銃で撃たれるなんて運がねぇな。一難さってまた一難ってのはこのことだな……)
 心の中で愚痴ってるうちに、ふと、あることに気がつく。
(そういやぁあの赤髪は、俺のことを〔ヒカル〕って名で呼んでたが……、しかも、あの期待のされよう、俺ってば英雄だったり?)
 確かに、あの男はその名で呼んでいた。
きっと、それは事実なのだろう。
 だが、英雄かもしれない、なんて考えは捨てる。
誰一人いない中で、ピンピンしてる奴が現れたら、誰だってそいつに頼るだろう。
人は、そういうものだ。
 ところで…あいつは無事だろうか、なんてことがよぎる。
 そして、それに苦笑する。
 前の自分がどんな奴だったかなんて知らないが、自らもピンチな時にほかの奴を気にかけてるなんて、どれだけお人好しなのだろうか。
 さて、と一息ついて警戒を強める(警戒などしていなかったが)。
 慎重に、相手の動きを観察する。
 さすがに次の動きを読む、というのは、今の自分にはできそうになかった(前の自分がどうだったかは知らないが)。
 ピリピリと張り詰めた肌を、まるで嘲笑うように軽薄な風がなでていく。
 足音が一度離れて……また近づいてくる。
 ゆっくりと、しっかりとした足音は不安を煽った。
 ふと、足が止まる。壁を挟んだだけの距離で。
 心臓が破けてしまいそうなほど音をたてて動き、それが相手に聞こえていないか心配になるほどである。
 沈黙。
 強い風が砂を空中へと躍らせる音だけが耳に入る。
 先に動くのは、自分か、それとも向こうか、はたまた同時か。
 いつもなら気づかないであろう頬を伝う冷や汗の冷たさく、さらさらとしていないものがはっきりと感じられ、伝った後もその感覚は消えない。
 沈黙。両者、動く気配なし。

 ガラッと音がした。

 あまりにピリピリと張り詰められた警戒だったのが災いし、両者ともその音のほうへ意識を向けてしまう。
 が、相手の方へと先に意識を戻せたのは、俺だった。
 俺も奴もそこに何があるのかを知らなければ、確実に奴が先に意識を戻し、俺を殺していただろう。
 だが、俺は知っていたのだ。
 音がした方、そこにある瓦礫の山と、その中に埋もれる赤髪の存在を。
 奴が見せたわずかな隙を、俺は見逃さなかった。
 いや、見逃す馬鹿がどこにいる?
 とっさに懐へと飛び込み、拳を構える。
 そして、その鳩尾を、
「くらえやあぁぁあ!」
とにかく力任せに殴った。


 あの後、俺は赤髪を助けに瓦礫の山へ走った。
 が、もう手遅れだった。
 ガラガラと崩れた瓦礫の隙間からは血が流れ、それでもと引きずり出した赤髪は、案の定、即死。
 手足は変な方向へ折れ曲がり、もはや髪だけでなく全体的に赤い。
 あまりに無残な姿をみて、気分は最悪になる。
作品名:Lv1  (仮) 作家名:アミty