Juno は きっと微笑んだ
お花見の準備
「いや、あのー お花見の準備できてないから・・シートとか引くんでしょ、それにテーブルもでしょ」
隼人さんに誘われたけど、ここで一緒に俺まで飲みだしたら外でお花見って感じじゃなくなりそうだったから、あわてて叔父に聞いていた。
「そうだなぁー シートはもう庭にあっただろ、会社の持ってこさせておいたから、テーブルはここから運ばないといけないなぁー」
叔父がお酒を片手にのんきにだった。
「ほな、うちの若いのにやらせましょか・・もう、暇して遊んでるさかい、電話でもしましょか・・」
遊んでるステファンさんが言う事でもなかった。
「じゃぁ、俺、教会に行って声かけてやっときますよ・・」
「そうかぁー なら たのんでえぇかぁー 林君とかいるさかい・・使ってやぁー 」
「じゃぁ、やっときます」
たぶん教会には若い神父さんたちが3人ぐらいはいるはずだった。もちろん、お花見にも参加するはずだったから、ちょっとぐらいは手伝ってもらってもいいはずだった。
「俺も、手伝うわ・・」
隼人さんが腰を上げながらだった。
「あっ、大丈夫ですけど、ちょっと、いいですか・・」
麗華さんのおとーさんがもうすぐ来る事を教えておいたほうがいいと、思っていた。
「なんだ・・・」
手招きして、少し離れた廊下まで隼人さんと歩いていた。
「なんか、叔父が麗華さんのおとーさんと知り合いだったらしくて、今日のお花見に呼んだらしいんですよ・・だから、たぶん、もうすぐいらっしゃると思うんですよね・・」
「えぇー 麗華、何も言ってなかったけど・・」
「娘さんには内緒で来たらどうですか、って叔父が言ったらしいです。だから麗華さんも知らないと思います。それはそれで、俺もおもしろくっていいかなぁっては思うんですけど・・隼人さんは、もう あんまり飲まないほうがよくないですか・・」
「赤いか・・顔、俺・・・」
「少しだけ・・」
少しって答えたけど、だいぶが本当だった。飲んだ時間は短い時間だったはずだけど、やっぱり柵が完成してうれしくてピッチが早かったんだろうなーってのは想像できた顔だった。
「だったら、余計俺も手伝って、酒抜いたほうがよくないか・・」
「いや、動くと余計にまわりますよ・・静かにしてたほうがいいですよ、お茶でも飲んで・・」
「だけど、あそこじゃ無理そうだぞ・・」
たしかに叔父とステファンさんと一緒だと、酒をもっと飲まされそうなのはわかっていた。
「ここで、お茶でもしててくださいよ、たぶん呼ばれても 何回か断れば平気ですから・・そんな性格ですから、叔父も神父も」
廊下の椅子を指差しながらだった。
「そうか、じゃぁ そうするか・・」
「はぃ、終わったらすぐ戻ってきますから」
「すまねーな」
「いいえ、あっ 面白いから麗華さんには内緒にしててくださいね、叔父に口止めされたし」
「うん、わかったわ、俺も劉から聞かなかったことにするわ、後で麗華に怒られてもイヤだから、そういうふうにしておいて・・」
「はぃ、じゃぁ ちょっとやってきます」
庭から庭に向かって、教会に向かうと、林さん達がちょうど教会の建物から表に出てくるところだった。
「あっ 林さんお願いあるんですけど・・」
1番話しやすい 林さんがいたのでほっとしながら声をかけていた。
「はぃ、なにかお手伝いしたいんですが・・」
向こうから話をだった。
「えっと、あそこの青いシートを桜の木の下に引きたいのと、叔父の家からテーブルを2個ぐらいかなぁ・・持ってきて欲しいんですけど・・」
「では、テーブルをわたし達で持ってきましょう」
「すいません、たぶん 叔母に言ってくれればわかりますから、きっと叔父さんは酔っ払ってますから・・叔母のほうに聞いてください」
「司祭もですね・・帰って来ませんから・・」
いつも落ち着いた林さんがすこし笑いながらだった。
「たぶん・・」
「じゃぁ、行ってきます」
林さんは若い先輩神父さんたちと、ゆっくりと隣の叔父の家に向かって歩き出していた。林さんを入れて3人の神父さんだった。
青い建築用の新しいシートはきれいにたたまれて置かれていて、それを持ちあげて大きな古い桜の木の下に運んで、広げだすと8畳ほどの大きさだった。
それから、シートと一緒に置かれていたペグを芝生に打ち込んでシートを止めないといけなかった。暖かでほんとに良かったと思いながらハンマーを片手にだった。
「置いちゃっても平気ですか・・」
しばらくすると 折りたたみの座卓をいっぺんに2つも抱えて神父さんたちが戻ってきていた。
「置いちゃってくれたほうが重しになってやりやすいですから、広げちゃってください」
「この方向でいいですかね・・」
林さんが座卓の足を伸ばして広げながらシートの真ん中に几帳面に真っ直ぐにだった。
「2つ真っ直ぐに長く並べちゃいますか・・あっ、四角がいいですか・・」
「シートの幅がありますから、四角のほうがみなさんお話近くていいんじゃないですか・・」
相変わらず、丁寧な言い方の林さんだった。
「そうですね、それでお願いします」
「こんな 感じですかね・・」
「はぃ」
二つの座卓が合わさって、ほぼ真四角のテーブルが出来上がっていた。
「座布団を取り行ってきますけど、だれか、こっちを手伝いますか・・劉さん」
「こっちは 平気ですから」
「そうですか、では、みんなでまたお隣に行きますから・・」
「すいません」
座布団を運んだら、後は料理と飲み物だけだなぁーって考えていた。時計を見ると2時をまわっていた。
「あのー すいませーん、車って、あそこに止めてもいいんでしょうか・・」
正門から静かに入ってきた銀色の高級車の窓から聞かれていた。ベンツだった。
「たぶん、平気です、止めても大丈夫です」
あわてて、立ち上がって、少し離れた車に向かってだった。
車はゆっくりと止まって、中からは高そうな背広の紳士とその奥さんのような人が降りてきていた。
「あのうー すいません 初めてなんですけど・・」
「えっ」
気になって見てたから目があって声をかけられていた。
「えっとー ここの教会の人間じゃなんですけど・・わかる事ならおこたえしますけど・・」
「お墓っていうのは どこにあるんでしょうか」
「そこを左に曲がって、真っ直ぐ進むとすぐですけど」
「そうですか、ありがとうございます」
2人はゆっくりと芝生の上を歩いて教えたお墓に向かっていた。
限られた信者さんのお墓だったから、めずらしい光景だった。
「あっー 」
間抜けだったけど、声を出したのは2人の姿が見えなくなってから3分も過ぎた後だった。
麗華さんの おとーさんと、おかーさんにきまっていた。
あわてて、走り出して、2人を追いかけていた。
やっぱり、間違いなかったみたいで、2人はなにか話しながらお墓参りではなく、そのまわりの出来上がったばかりの柵を見ながら歩いていた。
「あのー すいません、間違えてたらすいませんけど、麗華さんのおとーさんとおかーさんですか・・」
「はぃ、そうですがぁ・・えっと・・・」
「初めまして柏倉です、隣の家の渡辺の甥っ子なんです」
後輩とか友達って言ってもよかったけど、叔父の名前を出していた。
作品名:Juno は きっと微笑んだ 作家名:森脇劉生