Juno は きっと微笑んだ
直美が仕上げて
叔父とステファンさんは食事をしながらお酒を飲みだしちゃって、2人だけは一足早い宴会になって、食事が終わると横になってお昼寝を始めていた。
隼人さんと麗華さんは陽の当たる廊下で叔母が入れた紅茶をゆっくりと飲んでいたから、俺と直美は教会に向かって少しだけ残してあった柵の小さな場所にペンキを塗りに歩き出していた。
「わぁー きれい・・すごいねぇー」
直美がお墓に近付きながら小走りでだった。
「そこの右側の1番端っこのところを塗るから・・」
「はーい」
「今、ペンキ持っていくから・・」
残しておいたペンキを隼人さんのトラックからおろしながらだった。直美はぐるっとお墓の回りを1周して出来上がったお墓の新しい柵を見ていた。
「すごいねー かわいいいねー」
足を止めてお墓の入り口の門を見ていた。
隼人さんと麗華さんが、一生懸命飾りをつけて色を染めた門だった。
「すごいよね、1ヶ月でできちゃったなぁー」
「麗華さんがあんなに頑張るってちょっと以外だったなぁ、わたし・・」
「そうだなぁー 俺もだなぁー 作業着を平気で着てるもんなぁー それだけでもビックリだなぁー」
「でしょう、ペンキついてても平気な顔してたし・・」
「だよなぁー」
同じことを考えていたようだった。
「さっ 塗っちゃおうかなぁ、叔母さんのほうも手伝わなきゃ・・」
「そうだな・・場所わかったか・・」
「わかるよーここでしょ」
「そう、はぃ、これね・・」
小さめのローラーを直美の手に渡しながらだった。
「よかったぁ ほんとに塗るところあって・・これだったら、ここに来てもわたしが手伝ったって思えるもん」
「そうかぁ、そうだな」
「ここに来る楽しみが増えてよかったぁ」
丁寧に白い下地の上に薄プンク色をのせていた。
「どこかに小さく直美って、名前も書いちゃえば・・記念に」
「そんなのはできないよ・・入れていいのは隼人さんと麗華さんだけだって・・」
「そうだなぁ、そりゃそうか・・どっかに入れちゃえばいいのに、隼人さんも麗華さんも」
「でも、これだけ立派にできればそんな事しなくても、充分かもよ。書かなくても全部が隼人さんと麗華さんの名前みたいなもんでしょ」
たしかにそうだなぁーって思っていた。
「どう、これでいいかな・・」
「うん、完成」
直美が小さなスペースを塗り終えて、新しくなったかわいい柵の出来上がりだった。前に見た隼人さんが描いたパース図通りに出来上がっていた。
2人で少し離れて立ってそれを眺めていた。とってもかわいいお墓になっていた。
「いいね、なんか作るのって・・」
「劉、わたし達もここになんか作っちゃう・・」
「なんかって、言われてもなぁー なにがあるんだろ・・」
「大きいのは無理だから・・あの木に鳥のお家つけちゃうなんてどう・・」
大きな樫の木を指差していた。
「ステファンさん許可するかなぁー」
「大丈夫よ、きっと・・ それなら家で作れちゃうし」
「そうだなぁー 機嫌いいときに聞いてみようか」
「たぶん、今日なら平気かも、機嫌よさそうだったよ」
機嫌がいいっていうか、酔っ払っていたようだった。でも、面白そうだったから本当に聞いてみようって思っていた。鳥が巣を作ってくれれば楽しいけど、どんな鳥がこの都会の真ん中で家にしてくれるのかはさっぱりわからなかった。
「どう、終わったの直美ちゃん・・」
麗華さんが1人で教会の庭にだった。
「おわりました、麗華さん、すごっくかわいく出来上がりましたねー」
「最初に、聞いた時はどうなるかと思ったけど、出来上がってほっとしちゃったぁー 楽しかったし・・怒られたりしたけど・・」
「隼人さんにですか・・」
「そう、それもなんかすごーく真剣な顔で・・そうじゃねーだろうがー とか言うんだよー 」
「意外な一面でしたか・・」
直美がうれしそうに麗華さんに聞いていた。
「うーん、付き合いは長いから今までだって、怒られたり、喧嘩もしたけどさぁ、でも、こんな仕事みたいなことをしてる隼人をを見るのも初めてだし、一緒にも初めてだからね・・いろんなことがあったよー・・そんなに怒らなくってもってのけっこう あったなぁ」
「でも、麗華さん、楽しかったんですよねぇー」
「あっー 直美ちゃんにそんな事言われちゃうか・・」
恥ずかしそうな麗華さんだった。
「だって、先週ここで隼人さんと作業してる麗華さん、すごーく、うれしそうだったもん」
「もぅー 直美ちゃんだって劉と一緒だといつでもうれしそーな顔してるくせに・・」
「そんなことないですって・・麗華さんは、そうですけど・・」
2人でずーっと笑いながら続きそうだった。
「あのー 隼人さんは・・」
隼人さんがやってこないから気になって麗華さんに聞いていた。
「それがさぁー 劉の叔父さんが寝てたのに起き出してきて、終わったんだから酒飲んでもいいだろうって・・付き合いだしちゃったわよ、あの人・・」
やべーって思っていた、後で麗華さんの親父さんが来るはずだった。
少しならいいだろうけど、あんまり酔っててはマズイかなーだった。
「じゃぁ、きれいに終わりましたから戻りますか・・まだ、用意しないといけないんでしょ、直美も・・」
「うん、もう少しかな・・お花見早めに始めるんでしょ・・叔父さん言ってたけど・・」
「でも、3時ごろになっちゃうでしょ、もう1時半過ぎてるし・・」
「そうだねー でも、暖かくってほんとに良かったね・・桜も満開だしね、劉」
教会の大きな古い桜の木は、満開でとってもきれいだった。
俺も見上げて、直美も見上げて、麗華さんも見上げていた。
「じゃあ、わたしも手伝わなきゃね、もどろうか、直美ちゃんも劉も・・」
「はぃ」
返事をして、桜を見ながら叔父の家に向かっていた。
早く行って、ほどほどに隼人さんを止めないといけなかった。
「おっー 帰って来たかぁー 劉ちゃん」
ごきげんな叔父に言われるかと思ったら、もっとごきげんな隼人さんに言われていた。
「劉もー こっち座って、飲みなよー」
隼人さんに手招きされていた。手遅れのようだった。
ステファンさんも 叔父も 隼人さんも3人揃って赤い顔だった。
桜の木の下ではなかったけれど、お花見は始まってしまったようだった。
ネコのタマはあきれてアクビをしていた。
作品名:Juno は きっと微笑んだ 作家名:森脇劉生